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見つからない資料
--見つからない資料--
あらすじ:幼女かわいい。ゴロツキカッコイイ。
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「ごっめ~ん!ギルド長に直談判したんだけどさ。やっぱりダメだって。」
ソーデスカが明るい声で無残な結果を伝えてくれた。
冒険者ギルドで働く事に乗り気ではなかったけれど断られると落ち込む。
(落ち込むなよ、相棒。良かったじゃないか占いは続けられるんだぞ。)
ジルの慰めも白々しく聞こえる。
「いや、あまり期待していなかったし、占いの仕事も続けたかったし、やっぱり孤児院の迷子探しくらいは続けていたかったし。」
自分でも言い訳が過ぎると思う。
「ああ、昨日の子の話ね。聞いたわよ。報酬を渡すためにわざわざ迷子になりに行くって凄いね。危険も有るのに、よっぽど探してもらえるって信頼しているのね。」
「あの子が孤児院で最初に見つけた迷子だったんだよ。たまたま巻き込まれて見つけてから時々話をするようになったんだ。あと、昨日の報酬は受け取って無いよ。」
「なんで?せっかく小さな子ががんばってくれたんじゃない。」
「そんなの八百長みたいで報酬をもらえないでしょ。次に迷子になった時に、またボクのせいでワザと迷子になっていると思われたら迷子探しの依頼が出ないかもしれないじゃないか。」
ボクがコロアンちゃんに迷子になるように言っていると思われても困るし、間違えてコロアンちゃんが人さらいに連れていかれたら可哀そうだ。
「ん~、それはマズいわね。今回は、たまたま良い人に会ったから助かったんだしね。」
「迷子探しで報酬は無かったから今日中に資料を探し出さないと、明日からのご飯が食べられないよ。」
「ほんっと、なんでそんなにお金がないのかな~?」
ソーデスカが呆れる。
「もう少し余裕が有るはずだったんだよ。この仕事にこんなに時間をかけなければ。」
「私達が悪いって言うの?」
彼女たちの仕事を手伝って、すぐに終わるはずだった仕事に6日もかかってしまったのだから少し非難の色を交えて答えたのだけど、ソーデスカの眼力に簡単に簡単に委縮してしまう。
(もう少し、ちゃんと抗議しとかないと、またベスターメンでコキ使われるぞ。)
ジルの非難の声にも返す言葉が無い。
「いや、そんなことないけど…。」
でも、怖くて言い返せない。言い返してもお金が増えるわけじゃ無いしと言い訳を考えてしまう。
「わかったわよ、今日の所はなるべく仕事を回さないようにするわ。」
(『なるべく』であって『絶対に』には、ならないんだよな。)
ジルの声がソーデスカに聞こえてなくて助かった。ジルの非難の声がソーデスカの耳に入れば、さらに揉めてしまう。
「ありがとう、助かるよ。」
「んじゃ、がんばってね。」
ソーデスカが膨れた顔を隠すように踵を返すと、後ろ手をひらひらさせながら資料室を出て行った。
(それじゃ、はじめるか。まずはああああの書から行くぞ。ああああの書はどこに行った?)
ジルの言葉に『失せ物問い』の妖精が囁くと、ああああの書の位置が判る。棚に納められて簡単に取り出せる位置にある事にほっとするとジルにリストを読み上げてもらって次々と資料を集めていく。掘り起こす手間が無ければ時間もかからないから今日中には終わるだろう。
(さっきので、最後だぜ。)
ジルがリストを最後まで読み上げ終わったようだ。思った以上に早く終わった。
(ありがとう。お疲れ様。)
(本来なら、これだけ読めばノドが渇いているところなんだけど。)
(お酒でも差し入れ出来れば良かったんだけどね。)
ジルは棒なので口が無い。食べる事も飲むことも必要は無いのでノドは乾かないけど、一仕事を終えた時の一杯が飲めないのは寂しい事だと思う。
(ん~、こういう時はノドが痛いだろうから果実のジュースが良いな。ミニコラのジュースとかが良いんじゃないか?)
(ホント、飲めるんだったら、オゴって上げたいけど。)
(気をつかうなよ。ノドが渇かなくてラッキーってなモンだ。さあ、成果の報告をしに行こうぜ。)
見つけた資料は机の上に積んである。数も量も有って重いのでソーデスカを呼んできた方が良いだろう。
「ソーデスカ、資料室は終わったよ。」
「あら、早かったのね。」
「足の踏み場さえあれば初日で終わっていたんだよ。」
「やっぱり、私たちが悪いって事になるのね。」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど。」
資料室の整理が出来ていればこんなに時間はかからなかったし、途中で彼女たちの仕事を手伝わなければもっと早く終わっていただろう。でも、資料室を整理しようとしたのはボクだし、手伝うと言ったのもボクだった。足の踏み場だけ作ってさっさと終わらせれば良かったかも知れない。
「まあいいわ。ありがとう。全部見つかったのね?」
「いや、全部は無いんだ。」
『失せ物問い』で妖精が教えてくれた資料の中には資料室に無かったものがある。
「無くなっている資料でも有ったの?」
「そうなんだ。調理室に1冊。地下倉庫に5冊。ギルド長室に4冊。あと、マッテーナさんという人のお宅に27冊あるみたいなんだけど。」
「ホント?」
「資料室は見直したし、ボクの『ギフト』が言っているから間違いないと思うんだ。取り合えず、マッテーナさんのお宅以外の場所を確認したいんだけど。」
「そうね。まずは調理室と地下倉庫を確認した方が良さそうね。誰がそんな場所に置いたのかしら?」
「さあ?ボクの『ギフト』は物を探すだけだから、犯人までは捜せないよ。」
「そうなの?犯人まで捜せたら楽だったのに。」
「その時は、占い師じゃなくて探偵でもやっていたよ。」
資料を探す占い師より、犯人を捜す名探偵の方がかっこいいね。
「浮気調査に使えれば儲かりそうね。」
「そうだね。それに迷宮入りの事件でも犯人が解れば簡単に解けそうだもの。」
ソーデスカと調理場まで行って、ハイデスネに断って資料を探すと簡単に見つかった。次に地下倉庫に行って同じことをする。資料室よりは整理されていたし、入り口に近かったので苦労しなかった。
「へ~、ホントに簡単に見つけるんだね。こんなトコ初めて来たでしょ?」
「初めてだよ。資料室だって、この間初めて入ったんだしね。」
「となると、ギルド長室のもギルド長の家の資料も本当に有りそうね。」
「え?マッテーナさんってギルド長なの?」
「ああ、そうそう、そう言う事ね。ギルド長が犯人だね。」
「だから、最初に調理室と地下倉庫でボクの『ギフト』を確認したんだね。」
「気を悪くしないでね。」
「いや、当然だと思うよ。」
自分の上司が犯人だとしても指摘しにくいよね。
間違っていて給料が減らされるのは誰だって嫌だもんね。
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次回:犯人は『ギルド長』
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