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追加業務
第1章 占い師を辞めなくちゃならなかったんだ。
--追加業務--
あらすじ:ボーナスで食べた1つ上のランクの夕飯は美味しかった。
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マッテーナさんに怒られた。
コレクダさんから受けた追加の宝石探しの報酬を報告しなかったからだけど、たまにはボクも美味しいご飯を食べても良いよね?
(ひっでーな、ヒョーリが自分で契約してもらって来た金じゃないか。)
(いちおう清書や複写なんかの別の仕事があった場合は報告しろと言われているし。仕方ないよ。)
マッテーナさんから離れたら仕事が貰えるか解らない。
(なんか。なんて全部の仕事に当てはまるじゃねぇか。発生した金を全部巻き上げる気だぜ。)
(でも、また裏路地で占いの客待ちするのもね。資料探しの方が安定して儲けは良いんだし。)
(今度から報酬は分けられないように宝石で貰おうぜ。)
(速攻で売りに出されるよ。)
(それじゃ食べ物にしよう。腹に入ってしまえば値段も付けられないだろ。)
(お客さんからも連絡が行くと思うし、マッテーナさんの取り分をお金で払う事になって終わりだよ。)
いくら言っても何か方法が無いかとブツブツ言い続けていた。マッテーナさんとお客さんの方が仲が良いのだから、いつ話のタネになるか判ったものじゃ無い。
まったく、ジルはあきらめが悪い。
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てくてくと歩いてギルドのドアを開けると受付に行く。
「こんにちは。コレクダさんをお願いします。」
今日も彫金師ギルドで仕事だ。ありがたいことにお得意様になってくれた上に、マッテーナさんのようにマージンを取らないで宣伝もしてくれているので、とても良いお客様だ。
「やあ、よく来た。今日も頼むよ。」
「リストの続きからで良いですか?」
「ああ、頼んだ。またハイナを付けるけどかまわないだろう?」
「もちろんです。その方がお互い安心できますからね。」
3分の2ほどチェックの付いたリストを受け取りながら答える。
コレクダさんは彫金師ギルドのギルド長をしていてハイナさんの義理のお兄さんに当たる。弟のアレクダさんは宝飾ギルドの開発室でデザイナーをしている。この前ワゴンでぶつかって宝石を失くした人だ。そしてアレクダさんの奥さんがハイナさんになのだけど、名前が似ていて覚えやすいけど間違えそうにもなってしまう。
「それと、終わったら話があるんだ。少し時間をくれ。」
「わかりました。」
そう言うと、コレクダさんはハイナさんと入れ替わりに去って行った。
(さぁ、宝探しを始めるぞ!)
ハイナさんが来た時からジルが張り切っている。美人が来たから張り切っているというよりも、これから始まる探し物を楽しみにしているんだ。まぁ、ハイナさんはそれほど美人じゃない。かわいいとは思うんだけど。
「それじゃ、始めますよ。」
「はい、よろしくお願いします。」
ハイナさんと挨拶してから今度はジルにお願いする。
(ジル、頼んだよ。)
(おう、リストの続きはっと、オニセンの指輪はどこに行った?)
ジルの弾んだ声に『失せ物問い』の妖精が調子よく囁く。
「オニセンの指輪は倉庫にあるみたいですね。」
「わかりましたわ、案内します。」
そう、この間の宝石探しが上手くいったので、どこに片付けたか判らなくなって諦めた宝石を探す仕事が増えたのだ。資料よりも盗みやすいので念のためハイナさんが見届け人になってくれる。
そして、宝石を見つけるのが上手い事を知ったコレクダさんがあちこちで話して回ってくれたので、大きな倉庫を持つような商店や問屋の品物を探す仕事が入るようになった。倉庫だと資料室よりも無くなった物が多いし、問屋の荷物の多い倉庫を探す時なんかは洞窟探検みたいでワクワクする。
暗い倉庫の中を魔法の灯りだけで探検するんだ。
そして、彫金師ギルドの探し物は宝石や宝飾品なわけで、本当にギルドの中を歩きまわって宝探しをしている気分になって楽しい。
さて、今日は何個の宝石が見つかるかな。
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お昼前までに最後の16個目の宝石を見つける事ができた。
(スルジャにアミイとアマイイ。いや~大漁大漁!キラキラしてるぜ。)
机に広げられた宝石たちにジルの声が弾む。ホント、声は女の子のモノだから余計に楽しそうに聞こえるんだよね。
(彫金師ギルドってなんでこんなに宝石が無くなっているんだろうね。)
(長い年月の繰り返しかな。聞いてみろよ。)
「ハイナさん。どうしてこんなに宝石が無くなったりするんですか?値打ち物もたくさんあるようですけど。」
ジルと話していて静かだったボクから突然声をかけられて、ちょっとびっくりするハイナさん。あまりジルとのおしゃべりに夢中になっちゃダメだね。
「どうしてって、私が失くしたワケでは無いので何とも言えませんが、長いギルドの歴史の中で仕舞い忘れたものがほとんどだと聞きます。」
「そうですか。そうすると他のギルドの倉庫でも行方知れずになっている物が有りそうですね。」
(良かったな。これでしばらく食費にも家賃にも困ることは無さそうだな。)
ジルの声にニヤケ顔になりそうになるけど、ハイナさんに伝わらないように顔を引き締める。大きな倉庫は宝飾ギルドだけじゃないし、コレクダさんが宣伝してくれているのだから、もっと依頼が来るはずだ。
「私どもの倉庫でもこれだけ無くなっていますし、そうかもしれませんね。それに私どもの所でもリストから漏れているものもあると思うので、またお手伝いいただければ幸いですわ。」
「その時は喜んで力になりますよ。ところで、これで最後ですけど、コレクダさんに取り次いでもらえますか?」
朝に挨拶した時に終わったら話があると言われていたから、新しい仕事先でも教えてくれるのかとワクワクしていたんだ。
「こちらに来てください。お昼ご飯をご用意いたしますわ。時間は有りますでしょう?」
「ありがとうございます。お呼ばれします。」
(お、タダ飯か。)
(最近は食事に呼ばれる事が増えたから嬉しいよね。どこでも美味しいご飯が食べれるし。)
定食屋のご飯も、屋台のご飯も美味しいけれど、招待された時は何年も味わってなかった家庭の味が楽しめるので、とても嬉しい。
(メシマズが混じって無くて良かったな。)
(メシマズって、食事に招待してくれる人にそんな人は居ないよ。下手だったら料理番の人の料理が出て来るもの。)
錬金術ギルドで招待された時がそうだった。料理を覚えるくらいなら錬金釜を混ぜていたいと豪語しているギルド長で、ギルドで賄いのオバちゃんを雇っていた。
数人が座れる程度の小さな食堂に案内されて、しばらく待つとコレクダさんがやって来た。後ろには配膳のワゴンを運んでいるハイナさんの姿が見える。
「待たせてすまないね。ヒョーリ君。」
「いえ、終わった所ですし。」
「そう言ってくれると助かる。さあ、食べてくれ。」
ハイナさんの手によって美味しそうなパンとスープそしてステーキが並べられた。昼間からステーキとは豪勢すぎる。
「今日は豪華な食事ですね。なにかお祝いでもあったんですか?」
「いや、ちょっと特別だ。ちょっと厄介なお願いがあってね。良い返事がもらえると助かる。」
「それは、緊張して味が解らなくなりそうですね。」
新しい仕事を貰えると思って朝からワクワクしていたのだから、急に厄介な仕事だと言われると緊張してしまう。食事はもっと気楽に食べられればいいのに。
「難しい話じゃないから大丈夫だよ。」
(食べない方が良いんじゃないか?)
(ここまで用意されていたら、食べないわけにも行かないよ。)
(ハメられたな。食べたら依頼を断れねえぜ。)
ジルの言う通りだと思うけど、あきらめてステーキにナイフを入れる。ボクに来る程度の依頼で死ぬわけじゃ無いだろうし、こうなったら久しぶりのステーキだけでも楽しまないと。
「それで、どんな依頼なんですか?」
柔らかいステーキをひとくち咀嚼し終えて早々に尋ねる。どうせ、ひと口も1枚も変わらないだろう。さっさと聞いてしまった方が落ち着いて味わえるかもしれない。
「なに、この間見つけて貰った図面。あれを依頼してきた貴族の家に行って欲しい。」
お貴族様が相手だとすると、思ったより厄介な話になりそうだ。
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次回:厄介な『子爵家』
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