お宝

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お宝

第1章 占い師を辞めなくちゃならなかったんだ。 --お宝-- あらすじ:子爵家でお宝探しを頼まれた。 -------------------------------------------------- 「入り口横の門番の詰め所に有るようですね。」 隠し財産の出所が判らないから自分の身の危険を感じたんだけど、見つけた後の安全は(あきら)めて今殴られないために『失せ物問い』の妖精が囁いた場所を教える事にした。だって、そろそろヒダリィさんが怒りそうだったんだもの。 「あんな場所に!?いや、あそこならウチの衛兵が必ず居るから常に誰かが見張っていると言うわけだ。」 納得したヒダリィさんに連れられて門番の詰め所まで行く。誰も来ないような部屋に隠しておかずに、必ず誰かが見張っている場所に隠していたみたいだ。だけど、いつも誰かが居るって事は隠す時はどうやって隠したのだろう? 貴族の家らしく広い前庭に馬車が自由に通れる大きさの門がある。その横にある小さな詰め所には人が入って休憩したり着替えたり出来るようになっていた。『失せ物問い』の妖精によると、この中に隠されているようだ。 休憩していた門番を追い出して中に入ると、詰め所には簡単なお茶を沸かす道具だったり雨具だったりが見える。門番も門の前にずっと立っているワケではないので、ここで大部分の時間を過ごすのだろう。 「さあ、どこに有るんだ?」 ヒダリィさんの目が血走っている気がして怖いので、さっさと『失せ物問い』の妖精が囁いた場所を見つける事にしよう。 (ジル。もう一度、問い直しをしてくれないかな?) (おう、ネックレスの示す財宝はどこだ?) 『失せ物問い』の妖精が詰め所の壁の金庫を差して囁いてくれた。 「あの金庫の中みたいですよ。」 「金庫?ちょっと鍵を用意させる。」 ヒダリィさんが1人の衛兵を連れて戻って来ると金庫の鍵を開けて中を覗き込む。他の衛兵と違って、帽子に勲章が付いていて偉そうな感じだ。子爵家の衛兵をまとめる隊長さんかも知れない。 金庫の中はヒダリィさんでよく見えないけど、鍵束や書類が入っていて金目の物はなさそうに見える。 「本当にここにあるなろうな?」 ヒダリィさんが(にら)むけど、ボクに聞かれたってね。後はネックレスの謎を解いてもらわないと判らないよね。 「ボクの『ギフト』はそう言っています。どこかに他の鍵穴とか無いですか?」 その言葉を聞いて、もう一度ヒダリィさんが金庫を探しなおすと、金庫の扉の下側に魔法陣を刻んだ魔晶石があったみたいだ。ペンダントとその魔晶石を近づけると金庫の奥の背板が開いた。ペンダントが魔道具になっていて複雑なカギになっているのだろう。中々に凝った仕掛けだ。 「やったぞ!宝箱だ!!」 ヒダリィさんが叫ぶ。 良かった、これでお役御免だ。お貴族様と関わると危険が命に直結している気がして心臓に悪いから、さっさと家に帰りたい。子孫にも隠すような財産なんてどう考えても変な感じしかしない。普通に相続していけば良いじゃないか。 それに、ボクの仕事は見つけるまでだから、報酬には関係ないしね。 「よし、少々小さい箱だがアシンハラ様に報告できる。ついてこい。」 「いえ、見つかったのなら、お(いとま)し…。」 「つべこべ言わずに付いてこい!礼の一言ぐらい(たまわ)れるかも知れんぞ!」 礼なんかでお腹は(ふく)れないからさっさと帰りたい。ボーナスをくれるならともかく、心配で胃がすり減るかもしれない。まぁ、本音を言って怒らせるとゲンコツが飛んできそうなので黙って着いて行くことにしよう。 (貴族じゃねぇのに横暴だよな。) (貴族じゃないの?) (貴族に仕えているだけのヤローだよ。それより、逃げる準備をするぞ。相棒。) (逃げるって?) (バーカ!あの箱の小ささを見ただろう?大したものが入っているワケないさ。散財して金が無いのに期待していた程の財産は無かったんだ。こういう時の貴族様は何するかわからんぞ。) 多少の飾りがあるけど両手で持てるような小さな箱だった。これに金銀財宝が入っていたらヒダリィさんはもっと重そうにしているだろうし、貴族の家が持ち直せるほどの物が入っていそうには思えない。 (新しい宝の地図や、権利書なんかの可能性は?) (隠し場所に衛兵を配置するヤツだ。わざわざ別の場所、例えば森の真ん中なんて場所に隠したりしないだろうし、屋敷の中はネックレスの宝探しで粗方探しているだろう。それに利権なら常に何かしらの手続きが有るだろう。税を払ったり報酬をもらったりな。) (貴族の事に詳しいんだね。) (少しだけな。宮廷占い師の婆さんの所には貴族しか来ないし、それ以前も商人として貴族と関りがあったからな。) (ああそうか。どんな商売をしていたの?) (そんな昔の話より、逃げ道を探す方が先だぜ。) 普通に帰る事ができれば良いけど、万が一の時のために逃げ道を探しておかないとイザという時に逃げられない。ボクの足なんてたかだか知れてるし、見つけておいても逃げれる気がしないのだけど。 (お、階段の所に良い感じの隠れ場所があるな。) ジルの声に釣られてみてみると、階段の下には布が飾られていて何かを隠しているように見える。 (あそこに隠れるの?) (誰かが追いかけてきた時にやり過ごすだけだな。ああ、階段は飛び降りろよ。) 逃げ道を探しながら階段を登ると1つの部屋に案内される。豪華な応接セットと机が有って本来なら書斎として使われていそうだけど、ソンオリィーニ子爵がソファーにゆったりと座ってお茶を飲んでいた。 「なんだ?もう見つけたのか?」 「その通りでございます。アシンハラ様。さすがに探すことに特化した『ギフト』ですな。」 ヒダリィさんが答える。 「本当か!?どこだ?」 「こちらにございます。」 先ほどの小さな箱を見せると、子爵様はがっかりしたような顔をする。やっぱり大きな宝箱を期待していたんだね。 「なんだ。こんなにちっぽけな物だったのか?」 「小さくても値打ちのあるものはたくさんございましょう。ともかく、あのネックレスの魔法陣を鍵として開いた場所に有りましたから間違いないでしょう。」 ヒダリィさんがあわてて取り繕う(とりつくろう)と、今までの経緯を話しだした。 「なるほど、途切れない衛兵の見張りに、金庫の奥の隠し扉。おまけに魔道具の隠された鍵穴とはな。これほど厳重に隠されていたのならきっと値打ちがあるものに違いない。」 ヒダリィさんの説明に、さっきとは打って変わって子爵様の顔が勝ち誇ったようになる。これで本当に良い物が入っていれば良いんだけどね。だから、さっさと逃げるために口をはさむことにした。 「良い物が見つかったようで何よりです。私はこれで失礼させて…。」 「まぁ、待て。せっかく見つかった物だ。キサマも興味があろう?見ていくがよい。」 中身に興味はあるけれど機嫌が良い内に帰りたかった。 「…それでは、お言葉に甘えまして。」 「そうかそうか、やはり興味があるだろう。見ていくがよい。」 箱の表には書斎の机に書いてあるものと同じ紋章が有って、その下には魔晶石が()められている。きっとあの紋章は子爵家の物で、金庫の時と同じように魔晶石がネックレスと反応する鍵となっているのだろう。 子爵様が箱の魔晶石にネックレスをかざすと、カチリという音が鳴って箱がわずかに開いた。 「おお。まさしくネックレスの宝だな!」 興奮した子爵様が箱を大きく開けるとそこには1枚の紙切れが入っていた。 『これを見つけられるとはすばらしい頭脳だ!その知恵で頑張れ!』 羞恥のためか、怒りのためか、赤くなる子爵様。 「こんなニセモノ(つか)ませおって!」 いやいや、間違いなくアナタの家から出てきましたよ。ボクは箱に触ってもいません。 ドスン。 ヒダリィさんに助けを求める 前に、宝箱が飛んできてボクのお腹にヒットして、体の中の空気が全部飛び出してしまった。 (逃げるぞ、相棒!) ジルの呼びかけに顔を上げると、壁に掛けてあった剣を取りに行く子爵様の姿が見える。 いやいやいや、ヤバいでしょ。あわてて体を起こすと扉に向かって一目散に走りだす。ヒダリィさんは青い顔して壁の方に逃げているし邪魔される心配はない。 「逃げるな!このインチキ占い師が!!」 そう言うと、子爵様は手に持っていたネックレスを投げつけてくる。 あわてて回避してドアを開けて逃げ出した。 天才占い師からインチキ占い師に格下げされたよ。 -------------------------------------------------- 次回:『階段の下』からの脱出。
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