冒険者ギルド

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冒険者ギルド

第1章 占い師を辞めなくちゃならなかったんだ。 --冒険者ギルド-- あらすじ:野草のスープが美味しかった。 -------------------------------------------------- 「しっかし、オメーの『ギフト』も役に立たねぇな。」 「仕方ないだろ。そうそう上手くいってればボクだって食べる物に苦労して無いよ。」 野宿の夜が明けてジルに「フラポの実はどこか?」と聞いてもらったけど『失せ物問い』の妖精は答えてくれなかった。 冒険者ギルドが欲しがっていた薬草も、ヨッチャの実もネムラの雫もダメだった。 「聞き方が違ったのかな?昨日は反応していたんだからフラポの実は近くに有るはずだろ?」 「移動したとか?」 「そんなワケねーだろ。ペットは移動しても探し直せるって言ってたじゃないか。フラポの実はどこですか~?」 イラついたジルの声とは裏腹に『失せ物問い』の妖精は静かなままだ。 「フラポの実が生っている場所は?フラポの実が熟している場所は?昨日はなんて言ったんだっけな。フラポの実が落ちている場所は?」 「それだ!落ちている場所。」 ジルが矢継ぎ早に問いかけてくる中に答えが有った。『落ちている場所』たぶんこれが重要なキーワードになっているんだろう。 「お、反応があったか。落ちている場所?そうか、『落とし物』か!?」 「そうだね。『落とし物』も『失せ物』に含まれていたみたいだね。」 「おお、ラッキーだな。これで森の中を駆け回らなくて済むぜ。」 「落とし物となると、地面に生えているような薬草とか山菜は無理っぽいかな。」 地面から生えている物や、木の実でも落ちる前の木に生っている物はだめかもしれない。 「おー、ダメ元だしやってみようぜ。アシタギの芽が落ちている場所はどこだ?」 やっぱり『失せ物問い』の妖精は静かなままだった。木の『落とし物』という解釈で良いのだろうか?フラポの実が採れるのなら、今日の収穫には十分だと思うし、ジルに頼んで色々と試しても良いかもしれない。 「ダメだね、反応がない。」 「まあ、良いさ。木の実だけでも僥倖(ぎょうこう)だぜ。とにかくネムラの雫が全部落ちてしまう前に取りに行こうぜ。」 落ちてしまって使えない木の実でも、場所が判ればその上には落ちていない木の実も生っているだろう。使い方次第では十分な収穫を見込めるんじゃないかな。 -------------------------------------------------- お昼ごはんに沢蟹の入ったスープを食べて街に帰る事にする。沢蟹とは言え肉のダシが効いたスープは野草だけのスープよりも美味しかった。 天秤棒になっているジルにぶら下がっている鍋と3枚の麻袋一杯に収穫が有ったので十分なお金になるはずだ。今までにこれほどの収穫があったことはない。冒険者になるには不足かも知れないけど、しばらくは森に通って生活するのも悪くないかもしれない。 ベツロウ草をかじりながらひもじく歩いた道を、幸せな重さを感じながら歩くことができた。 「あら、おかえり。ヒョーリ。結構な量の収穫が有ったみたいね。」 冒険者ギルドの受付でソーデスカがボクの荷物を見ながら声をかけてくれた。他の冒険者の担ぐ動物とは違ってしょぼい荷物かも知れないけど、今のボクにとっては自慢の荷物だから嬉しい。 「ただいま、ソーデスカ。相棒のお陰で、たくさん採れたよ。全部、換金して欲しいんだ」 塩味のスープしか作ることはできないし、どうせ街では料理をすることもない。全部を換金してしまっても問題ない。 「相棒って、どこに居るの?」 「コイツだよ。」 ジルを指さして言う。 「あらら、仕事が無くなって頭までどうにかなったの?」 「頼りになる相棒さ。」 (よせやい、照れるぜ。) ジルが照れてるけど、ボクには森で活躍してくれたのに誰にも気づかれない事がちょっと寂しく感じられる。 「まぁ、良いよ。ちょっと待ってて。査定してもらってくるからさ。」 いつものように奥にある食堂で待つことにする。ここで待っていれば査定が終わったらソーデスカが声をかけてくれるだろう。今日は量も多いし、いつもより時間がかかるかもしれない。 「いらっしゃい。何にする?」 食堂に入ると、ここで働いているハイデスネが声をかけてくれる。いつも元気に冒険者を相手に接客をしているんだ。 「ごめんね、査定待ちだけさせて。」 「なんだ、また金欠?」 「そうだよ。昨日で仕事が無くなったんだよ。」 ハイデスネにも同情されてしまう。 (オマエがいつも金欠なのは、この街では誰でも知ってることなのか?) (違うよ。時々この食堂に居座って客待ちをしているから顔見知りなんだよ。) ここの食堂は冒険者向けの作られていてお金が無くても居座らせてくれる。たまり場としている冒険者も居るし、査定の待ち時間をつぶしたり情報交換だけしていく人もいるからだ。 その分ハイデスネは毎回元気に声をかけて、がんばって売り上げを伸ばそうとしている。ここがムサイ冒険者ばかりでも明るく感じられるのは彼女のおかげだろう。 「でも、いつもより表情が良いね。収穫が良かったの?」 「フラポの実が大袋一杯に採れたよ。」 「あら嬉しい!夕食時まで居て良いから、ご飯を食べていきなさいよ。」 彼女が(オゴ)ってくれるとは言っていない。前に同じ手に引っかかった事がある。 「新しい仕事が見つかるまでは、パンをカジるだけにしておくよ。」 いつまで今日のお金が有るか判らない。 「元気が無いと雇ってくれるところも無いさ。って、今度も占い師の仕事の他に内職みたいなことをするの?」 「良い所があれば、そうしたいよ。せっかくの『ギフト』だからね。」 「いい加減、『ギフト』にこだわるのは止めなよ。飢え死にしちゃうわよ。」 「『ギフト』を使わなきゃ、大した仕事をさせて貰えないじゃないか。毎日イモの皮むきはごめんだよ!」 「それが仕事だってーの。『ギフト』が有っても面倒事はしなきゃダメよ。」 「でも、ハイデスネも『ギフト』の力があるからココで働けているんだろ?」 「まあ、『ギフト』の力は使っているけどね。それだけじゃ足りないんだよ。」 「でも、『ギフト』がなきゃ、もっと大変って事だろ?」 「ああ、ごめん。お客だ。夕飯までゆっくりしていきなよ。」 さっきまでも何人か冒険者が入っていたけれど、新しいお客を見つけて彼女は去ってしまった。 (逃げられちまったな。) ジルが声をかけてくる。相変わらず人が居る所では『小さな内緒話』を使うらしい。ジルの言う通りハイデスネは明らかにボクとの会話が面倒になったように見えた。 (そうだね。) (しつこい男は嫌われるぞ。) (しつこかったかな?) (しつこくて、面倒くさそうだった。) (悪かったね。) 頬杖をついてそっぽを向いて、ふてくされてやる。 (あ、知らないメニューが有るな。あれなんだ?あのベスターメンってのは?) 膨れているボクに構わずジルが聞いてきた。本当に話すのが好きらしい。厚かましいほどだ。 (小麦粉を細長く練って油で揚げたものさ。お酒のおつまみに良く食べられているよ。) (今度見せてくれよ。) (機会が有ったらね。だいたい定食しか食べないんだよ。) (下戸か?) (うるさいな、少しくらい飲めるよ。お金が無いんだよ。) (それもそうか。ところで相棒。コミャックイモが見当たらないらしいんだけど、あの厨房のどこに有るかわかるか?) ジルの言葉に『失せ物問い』の妖精が囁くと、コミャックイモの場所が判る (…それも、『失せ物』になるのか…。) (ハイデスネに恩を売って置け。) ジルの言葉に素直に従うことにする。 「ハイデスネ!真ん中の机の下でアマタイカの下敷きになってるよ。」 ハイデスネに声をかけると感謝の声が返ってきた。 -------------------------------------------------- 次回:ソーデスカの『査定』
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