5章 死神付きの少女

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5章 死神付きの少女

 ◇  一年前。ぼくは絶体絶命の危機に陥った。ぼくの考えの甘さが引き起こしたことだった。それで、大切な友達をひとり永遠に失ってしまった。以来、すっかり自信を無くして下ばかり見ていたぼくの前に、奇妙な影を引き連れている女の子が突然声をかけてきた。彼女を見た瞬間、奇妙な気持ちに襲われた。  初めて会う子なのに、なんだか懐かしい。大きな目、日焼けした肌、黒々とした髪は長く後ろに束ねていて、先へいくほど細くなっている。背は小さいが、態度はでかい。その器に納まりきれない生命力が溢れていた。でも、彼女の家庭内で起きた不可解な事件の話を聞くにつれて、鮮やかで力強いオーラが色褪せ、しぼんでいった。背後にいたはずの黒い影はもう見えなくなったのに、冷たい気配が細い針のように飛んできて、ぼくを不安にさせる。それは、彼女が良くないものに憑け狙われていることを暗示していた。  甲賀つばめは、死神付き。彼女を救えば、ぼくの罪は軽くなりますか?  いくら問いかけても、神様は応えてくれない。それなのに、馬鹿のひとつおぼえみたいに確認したくて、いつもぼんやりとした顔の見えない絶対的な存在に手を合わせて、祈るような気持ちで問いかけた。ぼくは物心ついた時には親に捨てられていたので、生まれてきたことが罪だと心のどこかで信じてしまっている。その揺るぎない信念がある限り、ぼくを引き取ってくれた養父に対してもあまり心を開けていない。 「岳彦、起きなさい。目を開けて、俺を見るんだ」  ずっと空席だった父親というポジションに突然現れた、謎だらけの男。敦賀 湊みなと。彼はぼくに力を授けたいと言った。 「ほら、ちゃんと両目を見ろ。しっかり意識しなさい。お前はいまここにいる。どこにも飛んでいくな。ここにいろ」  ごちゃごちゃと同じことばかり教え込む。湊の声を聴くと、懐かしさと愛しさと、同じだけの憎しみを思い出す。暴れて噛みついて引きちぎりたい衝動を覚える。 「ちゃんと自分の身体に乗りなさい。これはお前の身体なんだ。鍵もかけずに留守にしたらどうなるのか、散々嫌な思いしてきただろ? さぁ、へそに意識を集中しろ。ほら、もっと力を込めて」  節くれだった細ながい指はまるで、骸骨そのもの。その手がぼくの皮膚をつきやぶらんとしている気がして、緊張する。
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