1章 接触から始まる青春

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1章 接触から始まる青春

 蹴り飛ばした小石が一瞬で空をこわした。水たまりに映る太陽が、波紋ではげしく歪んでいくのをじっと見つめている。まだ乾ききらない空気からは、土のかおりがする。腐った墨汁のような、暗く不吉なかおりだ。  ――虹が見たいなぁ  雨上がりの空には虹がかかるものだと誰かが言っていたけれど、一度も見たことがないや。私はとことん運がない。  無邪気な笑い声をあげて、大勢の子供達が学校から吐き出されては散って行く。みんなまっすぐに家へと帰るのだろうか。それとも道草を食って、遠回りするだろうか。どんな道を選んでも帰る家はひとつしかないなら同じことだけれど、私には帰りたいと思える家はもうない。  校門を出たところで、立ち止まったまま動けなくなってしまった。大勢の子供達が私を避けて、流れ出ていく。  誰も気になどしていない。私に気付かない。  薄くはった水たまりが踏まれ続け、空も光もかき消されていく。とめどなく、あとかたもなく、壊れていくだけ。  心が虚しさでいっぱいになり、息が詰まる。こんなにも悲しいのに、泣く力も湧いてこない。  チリン  涼しげな鈴の音色が、私の横を通り過ぎていく。ギョッとするほど、背の高い男の子だ。一瞬、チラリと私のことを肩越しに見下ろして行った。一瞬だけ、目と目が合った。 「……あ……」  ささくれた声。なんて呼び止めたらいいのかわからずに、成す術なく、手を伸ばすと。彼の黒いランドセルに括り付けられた給食袋という名の巾着袋が、雨上がりのコンクリートの歩道の上に転がった。  振り落とされた巾着袋がうんともすんとも言わないせいで、落とし主は気付かずにつかつかと歩き、去って行く。  ―――ラッキー!  慌ててそれを拾い上げた私は彼の後を追った。 「ちょっと、待って!」
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