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呼び止めてもなぜか男の子は振り向かなかった。そのままスタスタと歩いていく。彼の後頭部のつむじは高く、猫背で頭を突き出した姿勢のせいで実際の身長よりも低く見えるけれど、やはり高い。小学生とは思えない高さだ。百七十センチあるお父さんより高い気がする。
「お、落とし物だよ!」
裏返った声で叫ぶと、やっとこっちを向いた。目が、やけに大きい。驚いて眼を剥いているせいかもしれないけど、それにしても大きい。
ゴクリ
眉間には深い皺が入っている。とても不機嫌のようだ。
「これ、あんたのでしょ?」
拾い物を突き出すと彼は視線をそちらに向けて、ムスッと口を結んだ。それから、むしり取るように私の手から巾着袋を奪い取ったと思ったら、あろうことか、礼も言わずに背を向けて歩き出した。
「え? なに? 聞こえないんだけどぉ」
わざと声を張り上げると、少年は立ち止まって天を仰ぎ見た。首だけ振り向き、肩越しから私を見降ろしてくる。
「親切の押し売りかよ」
「はぁ?」
「おまえはありがとうが聞きたくて親切をしたつもりなんだろうけど、そういうのは偽善って言うんだ。わかる? 偽物の善意っていう意味だ。困っている人を使って、自分は良い人間だって確認したいだけさ」
神経質そうに顔面を強張らせた少年は、まくしたてるような早口で説明した。
驚いて、口を開けていると。
「口、開いてるとバカに見えるよ」と、言い残してまた私に背を向けた。
ボロボロの黒いランドセルの塗装が今にも剥がれそうで、すごく気になる。
「ちょ、ちょっと! 待って! あんた、何組の誰だっけ? 六年だよね?」
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