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六年生は五クラスある。六年間通学していれば、大抵の奴らの面と名前ぐらいは知っている。だけど、この少年のことは記憶にひっかからないので、私は動揺していた。
「名前を知りたいのなら、自分から言うべきだと思うけど」
いちいち苛々する言い方だけど、正しいことを言っている。私は慌てて彼の前に躍り出て、行く手を阻んだ。
彼はまぶたを半分も瞳に被せたまま、私を見おろしている。ものすごい威圧感だ。でも、負けない。
ハーフパンツをギュッと握りしめて、勇気を振り絞る。
「わ、私は甲賀こうがつばめ。一組だよ」
「……。ぼくは敦賀岳彦。五年、一組」
「五年生なの?」
「……何か文句あんの?」
陰のある目元から鋭く光る攻撃的な視線が眉間を突き刺す。ゾクリと震えあがる。
「文句なんて、ないけどさ。驚いたんだよ。その身長だし。大人っぽいし」
岳彦は眉毛を持ち上げて、私をじろじろと見ている。
「お前は見ず知らずのヤツからいきなりチビって言われたら、どう思う?」
「ムカつく」
「だろ? 背が高いとか低いとか、そんなこと、いちいち持ち出さないでくれる?」
そう言うと、岳彦は私をよけるように横を通り抜けようとした。思わず、その腕を両手で掴んで引き留める。
掴んだ途端、岳彦は今度こそ本当に驚いた顔をして私を睨みつけた。見開かれた瞳から、困惑と怖れが読み取れた。
「お願い、怖がらないで! 私はあんたみたいな子を待ってたの」
私はそのまま岳彦の腕に、自分の腕を絡ませて歩き始めた。
岳彦の行こうとしている先に向けて、つま先を前へと飛ばす。
「ど、どういうつもりだ?」
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