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「自分の面倒を見ろ! あの子を救いたいのなら、しっかりしなさい!」
目を開けたら部屋の中にいた。湊の顔を見ながら思い出す。最後に見たのは、校長先生の机の奥で泣いていたつばめの顔だったことを。
湊はなぜか嬉しさを隠せないといった風に、微笑んでいる。この男のこういう笑顔は、出会った時振りなので少し驚いた。
「……お父さんがぼくを背負って、ここまで?」
「そうだよ。教頭先生が電話をくれたからね。厄介なことをしてくれたものだ」
笑顔と言葉のギャップに、ぼくは首を傾げた。湊は肩をゆすって笑う。
「って、最初は思ったんだよ。でも、良く聞いたらお前は自主的に女の子を助けたそうじゃないか。どういう風の吹き回しだい? その心境の変化を教えてくれないか」
華やかな男の屈託のない好奇心が鼻につく。
「そんな良いもんじゃないよ」
「ふぅ~ん。なぁんだ、って言ってこの俺が引き下がるとでも? お前にも恥じらいという感情があるんだな。はははははは」
嬉しさを隠せない子供のように、良く笑う。
「そんなことより、つばめは? あの子に会ったんだよね?」
「もちろんだ。あの大人びた目つきの子は倒れたお前のかたわらで心配そうにしていたぞ。顔色がとても悪かったが、まぁ体力はありそうだったな」
「どうだった? 彼女は助かると思う?」
「助かるって、なにが?」
とぼけているのだろうか。ぼくにこの世の生命についてあらゆる知識とそれをどう扱えば良いのか事細かく伝授する師匠のくせに、もったいぶったことを。
「つばめに憑いている、あの黒い大きな……」
「俺にそいつは見えなかった。隠れていたのかもしれないが、あの場面では他人の子より我が子のほうが大事でそれどころじゃなかったしね。一度に強い波動を放ち過ぎて、お前自身の防御が完全に崩れていたわけだし」
そう言いながら、湊は上半身裸のぼくの身体を摩ったり、手のひらをぴたりと当てながら修復してくれている。
「加減を覚えるまでは、こんな失敗の繰り返しだろうけど。まぁ、良いさ。その分、俺が手を焼いてやる」
にんまりと笑顔を向けられて、ぼくは直視できずまた目を反らせてしまった。露骨な優しさは嬉しいけれど気恥ずかしい。長いこと親不在だったこともあって、どう接すれば良いのか正解がわからず戸惑ってばかりいる。くしゃりと髪を撫でまわされた。
「さぁ、修復作業は終わった。ご飯でも食べながら、これからどうしたいか話してくれ。俺も手伝ってやるから」
湊が手伝ってくれるなら、百人力だ。思わず顔を上げ、目と目が合う。デレデレとした奇妙な笑い方に、ぼくはまたうんざりした。
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