電話

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 受話器を取って右上の細い投入口の中に十円玉を入れた。幸い、実家の電話番号は何とか覚えていた。子どもの頃、祖父母の家にダイヤル付きの黒い電話があったのを、うっすらと思い出した、確か、こうしていたはずだ……  恐る恐るダイヤルの穴に指を入れた。数字盤右下の金具に、かかるまで回せば良かったはずだ。スマホとは、勝手が違い過ぎて、苛々(いらいら)する。  何度か呼び出し音が鳴った後、誰かが出た 「もしもし?」  向こう側で、何か話しているが、ボソボソと声が小さい。いや、電話がおかしいのか。やけに声が遠い。 「もしもし、聞こえますか?」  声を少し大きくしてみたが、駄目だった。  何度か、押し問答にもならないやり取りを繰り返した後、ビーと警告音が鳴って、電話が切れた。時間オーバーだ。  気を取り直して、再び10円玉を入れた。落ち着いて、慎重にダイヤルを回す。しばらくして相手が出たが、やはり同じことの繰り返しだった。今度は向こうから電話を切られた。  もう一度かけてようとして、ふと迷った。残りは、後十円と少しだ。使い切ったら何もできなくなる。もっとも、使わなくても同じだが。    
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