クロコールの村

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 気がつけば、マテルナはアリアの鼻先すれすれにまで迫っており、お互いの吐いた息を吸うような距離だった。完全に戸惑った様子のアリアは、マテルナが我に返ったのを見て一瞬気まずそうに目を逸らした後、「なはは」と困ったように笑う。  それを見て、慌ててマテルナは飛び退き、必死に低頭するのだった。 「ご、ごめんなさい。つい、その……当時のことを思い返していたら、混乱してしまって……」  ようやっとマテルナが離れたのを確認して、アリアは胸をなでおろし、息を吐く。 「ふう。いえ、お気になさらず。私の方こそ、嫌なことを聞いてしまったかもしれません」 「……」  アリアの気遣いを受けて、マテルナは目を細めた。そして、自分の足元を見つめながら、ぽつりと言う。 「その……実は、私たちの方から言い出したんです」 「……へ?」  その言葉に、アリアが思わず聞き返した。  対して、マテルナは少し躊躇した様子を示す。が、すぐにここで黙り込んでも埒が明かないと判断して、言葉を続けた。 「村のために、私たちが自ら自分たちを差し出そうって決めたんです」  突然飛び出した、にわかには理解し難い事実にアリアとレミルは驚いて顔を見合わせる。それからアリアの方が首を傾げて尋ねた。 「それは……でも一体なぜ?」 「……」  自己犠牲と言うにもどこか抜けているというか、ある意味雑把なようにも思える。かと言って、それ程村に愛着や忠誠心のようなものが芽生える年頃にも思えない。一体なにが、彼女達にそのような選択を迫ったのだろうか。
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