クロコールの村

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「私たち、力はないですし、外の世界のことも何も知りません。だから、やっぱりあんな山賊の一味には到底敵いませんし……逆らったら何をされるか分からないじゃないですか」 「つまり、大人しく向こうさんに捕まっといた方が安全と踏んだってわけか?」  レミルが頭をかきながらそう聞いてくる。 「えと、はい……そうです」 「なんだか歯切れが悪いですね。本当にそれだけで自分の身を危険に晒そうだなんて思えますか?」 「……」  マテルナはそこで、何かに臆するように目を瞑った。それから何やら思案するように眉間に皺をよせ、唇をへの字に曲げた。いくばくかそうして逡巡した後、不意にゆっくりと口を開く。 「一人だけ、いたんです」 「……いた?」 「はい。とても明るくて、正義感が強くて、村の女の子のまとめ役をやっていた……そんな子が」 「いた……って言いますけど、それは、一体……?」 「カナ、という名前の子です。長い黒髪に、優しそうにたれた瞳とそばかすが特徴的な、愛嬌のある女の子でした。明朗で屈託がなく、いつも何をしてても、木の実を集める時も、紅を作る時も、小山から村を見下ろす時も、みんなの中心にいる……そんな子でした」 「いわゆるリーダー格ってやつか」  なるほどねと腕を組み、レミルが頷く。 「はい。多分みんな、彼女のその前向きで、一歩先を歩いて行ってくれる姿に憧れていたと思います。そんな彼女が……」  マテルナはそこで一度言葉を区切り、空を見上げた。いつの間にか日はかなり昇ってきているようで、木々の歯の隙間から差し込む光が彼女の顔に射し込む。それを浴びて、マテルナは眩しそうに目を細めた。 「真っ先に申し出たんです。自分が一味の元へ行く、と」  森の景色は、木漏れ日を浴びて包み込むように柔らかい。鼻通りのいい涼しい空気と、音が周囲に染み込むような静けさの中、ポツリポツリと話すマテルナの声だけが、三人の周囲を満たしていた。
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