クロコールの村

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 ー☆ー☆ー☆ー☆ー  カナがそんな、一見無謀にも思えるような提案をした時は、流石にみんなも止めました。危険すぎる……一味の狙いも分からないし、カナが身元を差し出した所で、この村が安全に済む保証もなかった。何より、彼女の存在は私たちの中で大きなものでしたから。  でも、私たちが考えを変えざるを得なくなるのに時間はかかりませんでした。こちらの返事が無いことに痺れを切らした一味が魔獣を引き連れ、二度目の襲撃にやってきたのです。対抗する手段もなく、以前よりも彼らの警告は少しだけ過激になっていました。……それで、とにかく相手の要求に乗らないとどうしようもなくなって。  そんな時も、やっぱりカナはいつものままの、とても気丈で前向きで、強さを秘めたままの瞳をしていました。そして改めて、自分の身を差し出すことを申し出てきました。その時の彼女はとても自信があって、私たちも、それどころかその場にいた大人たちも、彼女の雰囲気に飲まれそうになってしまうくらいでした。 『このままでは、実際に村の人達に被害が出てしまうかもしれない。そうなれば沢山の人が悲しい思いをするかもしれない。そんなことになる前に、手を打たないと』  と。  そして。 『こんな、何者にもなれない私の存在が、この村を救えるのなら、そんなに光栄なことはないわ。私は喜んでその役目を引き受ける』  あまりにも健気で、勇敢で、眩しかった。それこそ、この狭い村の中で決められた未来を目指すことしか出来ないでいた、「何者にもなれない私達」にとっては、そんなことを迷いなく言ってしまえる彼女の姿が、まるで遠い存在であるかのようにさえ思えてしまったのです。
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