クロコールの村

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 ー☆ー☆ー☆ー☆ー 「結局それから、彼女が戻ってくることはありませんでした。もう一月も経ちます。身を売られたか、慰みものにされたか……いずれにせよ、恐らく無事ではいられないでしょう」  唇を噛み、マテルナは苦々しげに言う。拳を握りしめ、自分の口にした言葉の意味に改めて恐怖し、震えていた。 「ルギフの一味はそれからも、村娘を要求してきました。状況は改善の兆しは見えませんでしたが、私たちは迷いなく、自分たちが彼女の後に続くことを決めました」  どこか危うげな信念を秘めた目で、彼女は力強く言う。 「例え身を危険に晒しても、彼女の守ったものを一緒に守る。せめて彼女と一緒に「何者か」になりたい。……みんな同じ気持ちでした。だってそれが、彼女が私たちにくれた「絆」なんですから」 「ふぅーん」  彼女が言葉を終えた後、まず間髪入れずに、そして気に入らないという感情を隠しもせずにそう声を漏らしたのはレミルの方だった。マテルナは彼の反応に、一瞬たじろいで眉尻を下げた。あっという間に、根拠の無い自信は吹き飛んでいく。 「……おかしい、ですか?」 「まあ、おかしいと言えばおかしいな。絆だかなんだか知らないけどさ、それってあんたら、自分で考えることを放棄して、ただそいつの後を追っかけてるだけじゃないか。そんなのは犬のすることだ……っ」  レミルがそこまで言いかけた所で、彼の頭頂にガツンと、何か固いものが鈍い音をたてて振り下ろされる。あからさまに痛そうな音に、マテルナが眉をひそめて見やると、木製の杖の先端が彼の頭に叩きつけられていた。マテルナはその光景を目にして、短く「ひっ」と漏らして顔をひきつらせた。  最初は何が起こったのか分からずにポカンとしていたようだが、段々とレミルの顔に冷や汗が浮かび、ダラダラと頬や鼻をつたい始める。やがて、ついには頭を抑え、痛みに飛び上がるようにしながら声をあげた。 「ナーーーオ!! ったあああああ!?」
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