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「えっ」
言われて、マテルナは息を飲んだ。
「仕方のないことですが……同調圧力。繊細な人間……例えば年頃の若い女性にはよくありがちな現象です」
それからガンを飛ばしてくる横の無粋漢を親指で指し示し。
「こういった手合いには無縁のことですので、まあ理解できないとしても無理はありません」
「おい、さりげなくまた馬鹿にしたな」
「マテルナさん。あなたのように「みんな」という言葉を多用し、一人の人間に偶像的な側面を植え付けて盲信する。更にそれに同調する人間の気持ちを分かったかのように語るなんて、典型的な例ですね」
「そ、そんなこと……」
マテルナは狼狽えて目線を左右に忙しなく動かしながら、アリアの言葉を否定しようとする。しかし、動揺した彼女には満足な反論を述べる余裕はなかった。
「実際に会ったことがない私には、そのカナさんという人物がどんな人だったのかは分かりません。ですが、例え彼女が素晴らしく英雄的な人物であったとしても、あなた達全員が彼女の後を追い、英雄になる必要はなかったはずです」
「……」
「きっとこれまで山賊に身柄を引き渡された人達の中には、心の奥底では逃げ出したいと、拒絶したい、と思っていた人もいたはずですよ」
「そ、そんな!! あなた達に何が分かるんですか!? こんな……こんな何もない村で生まれて……」
マテルナは拳を握りしめ、抗言した。どこか悔しそうに、苦しそうに。それを見て、アリアはため息混じりに首を振った。
「そうですね。私はまだ、マテルナさんのことをよく分かりません。マテルナさんの本当の気持ちが」
「だから、それは……!」
「他にどうしようもない……だっけ?」
そこで不意にレミルが言葉を挟んだ。すると、マテルナはハッとして目を見開いた。
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