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「は、はあ……」
呆れたような気の抜けたような、複雑な表情でアリアは頷く。流石にレミルも随分驚いた様子だった。
「まあ、そんくらい世間知らずだったってことか」
「ええ、多分そういうことですよね。……でも、だからこそこんな村で終わるのなんて絶対に嫌でした。自分の身がどうなるかも分からないのに……」
「きっとそんな反発心の反動で、自己犠牲を申し出るカナさんの姿が、物凄く尊く見えてしまったんでしょうね」
「……はい」
「なるほどね。んじゃ、わざわざ今日の案内を申し出て来たのも?」
「そうです。考えれば考えるほど、助かりたいと思えば思うほど、自分だけが安全に過ごすなんて不平等なような……他の子達やカナに後ろめたい気持ちになるような気がして」
マテルナは下を向き、ため息をつく。
「本当はパンが私のために助けを呼びに行ってくれた事も、とても嬉しくて。でも、私、それに気づいたら……」
そして両肩を抱えて、小さく小刻みに震え始めた。
「もしかしたら、他のみんなもこんな気持ちだったのかもって。そうしたら、何で私は気づいてあげられなかったんだろうって。……パンは私のために……なのに」
その目は後悔と恐怖の色を見せ、今も他の村娘達の身を案じているようだった。そんなマテルナを励ますように、レミルは彼女の肩に手を置く。
「あんたが気に病むことはないだろ。無理もない状況だったんだ。それよりも早くその一味とやらを退治して、一人でも多くの友達を助け出すことを考える方がいいんじゃないか?」
いつになく優しい声音でレミルが諭すように言うと、マテルナはゆっくりと顔を上げ、弱々しく笑った。
「そう……ですね。仰る通りです。今はメソメソしている場合じゃないですよね」
それから、心の中の不安を振り払うように頭を振ると、道の前方を指さした。
「よし、そうと決まれば急いで一味の根城に……」
その時だった。
死角になっていた周囲の木々の隙間から巨大な何かが勢いよく飛び出してきて、彼女に襲いかかったのだ。
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