耳とナイフと怪物と

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耳とナイフと怪物と

 エルフとは、大陸に住む八つの種族の中でも外見的には最もヒューマンに近い者達である。  彼らは皆一様に白い肌を持ち、長く美しい金髪とエメラルドの瞳を持つ。そして何よりも特徴的なのは彼ら特有の尖った耳であろう。  この種族は温和で理知的であり、高度な技術と自己への追求を怠らない姿勢を持ちながら、同時に自然への調和も忘れない。そしてまた、他種族への理解と受容という意味合いにおいても、彼らは極めて寛容だ。ヒューマンのような差別意識もなければ、ティターンのような排他的制度も持たず、かと言って文化を迎合することもなく、棲み分けを確立している。  近年では、この貴重で優秀な種族が数を減らしているというのは、看過せざる事態であろう。五年前、「白銀の大国」メルキセドの諸国遠征により、大陸史上最も残虐な事件の一つとして名高い「エルフ大粛清」が起こった。これによりエルフの総数は趨勢期の二十分の一ほどにまで減り、彼らは散り散りとなって隠れ潜むようになった。しかしその影響で、元々繊細で成育のために澄んだ水と空気を必要とするエルフの間には奇病が蔓延するようになり、彼らの減少に更に拍車をかけることとなっている。  もしもこの聡明で誇り高い種族が我々の大陸から永遠に失われるような事があれば、それはこれまでの歴史的などんな技術や文化よりも重大な損失となることは間違いない。  ー大陸歴史学者サルコフの著書『この愛すべき種について』よりー
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