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マテルナはその威容を目にしてようやく、自分の身に起こったことを理解すると、全身から冷や汗を吹き出した。
「あ……ああ……」
瞳孔が開き、恐怖と緊張の余り体が硬直して、喉の奥から掠れたような声が滲み出てくる。しかし、そんな行動は最早この状況において、なんの助けにもならない無力なものだった。ただ、本能的な「死」への警鐘が心臓に早鐘を打たせ、その張り裂けんばかりの鼓動の音が周囲にも聞こえるのではないかと思ったほどだった。
「だ、大丈夫ですか!マテルナさん!」
「くそっ!」
体がすくみ、動けないでいるマテルナに、アリアが焦った様子で駆け寄ってくる。同時に、彼女と化け物の間を割るように、レミルが舌打ちをしながら立ち塞がった。怪物は狂気の瞳で眼下の人間たちを見下ろすと、いきり立つように体を震わせる。正しく、こんなものとの意思疎通は絶対に不可能だと断言できるほどの殺意。それが巨体の全身から溢れ出していた。
「ひっ……な、なによ、あれ……」
口元を震わせながら、這うようにして化け物から何とか遠ざかろうとするマテルナ。段々と過呼吸となり息を荒らげる彼女に寄り添うようにしながら、アリアは突然現れた巨体の魔獣に視線を移し、そして目を見開いた。
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