言ってはいけない

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 人が住んでいない団地に四人で探検に行った。僕は止めたのだけど、他の三人は「大丈夫だから」とか「来ないなら明日から絶交してやる」とか言うので渋々ついて行った。当然、僕も含めて親には言っていない。小学五年生にもなれば、みんなそれが「悪いこと」だとわかってるんだ。誰も住んでいないからと言って、「人の家」に勝手に入るのは。  だから僕たちは、できるだけ早く帰ろうとしていた。一番近くの部屋に入って、ちょっとだけ見てすぐ帰ろう。それからまた行って、ちょっとずつ探検する範囲を広げて行こうとしている。一回で全部みてまわるのは無理でも、一回に一部屋を繰り返せば、いずれは全部見て回れると。  団地には建物がいっぱいあった。どれも全部同じに見えたけど、アルファベットが横の上の方に貼ってある。僕たちは、いつもC棟の近くから団地に入るけど、几帳面なケンちゃんが「一から見たい」と言うので、A棟から見て回ることにした。もしかして、全部見て回るのかな。一生かかりそうだけど。 「なんだこれ。ドアにばってんが書いてある」  タカシが言った。確かに、ドアには汚い線で×印が書かれている。釘か何かで引っ掻いたみたいだった。 「使えない部屋なのかな」  ユウマが言った。僕は妙に納得してしまった。そうか。使えないから×がついているのか。 「使える部屋には丸がついてるのかな?」  僕が言うと、ケンちゃんは一階の廊下をたたたーっと走って奥まで行ってすぐに戻ってきた。 「この階のドアには全部バツが書いてあるぞ」 「とりあえず入ってみようぜ」  僕たちは、廊下の入り口に近い部屋から入ることにした。鍵は掛かっていなかった。ここに住んでいた人は、住めなくなるからと引っ越したので、中には何もない。カーテンもなくって、外の光が差し込んでいた。 「なんだ、あれ」  ユウマが目を懲らした。人が倒れている、ように見えた。でも、人じゃない。人だったらガリガリの骸骨だ。  いや、本当に骸骨だった。床がすごく汚れている。その上に、骸骨が倒れていたのだ。僕たちは悲鳴を上げると、一目散に団地から逃げ出した。
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