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 10日後、稲種建は再び自邸の座敷に於いて弟子を一堂に集めて然も愉快そうに噴き出しそうに言った。 「お前ら揃いも揃って5分持ち堪えられなかったようじゃな」  弟子一同がっくりと俯く。 「それどころか一分も持たなかった奴がおったようじゃが・・・」  一人の弟子が慙愧の念に堪えず深々と俯く。 「ハッハッハ!」と稲種建は遂に噴き出した。「噴飯物じゃ。よって奥義極意は誰にも明かさん」 「そ、そんな~!」と間抜けな声を押し並べて上げ、残念無念の表情を浮かべる弟子一同。 「ま、免許皆伝の腕を身につけ出藍の誉れとなるべく精々画業に励むことじゃな。ま、しかし、今後も幾ら彩管を揮った所でわしがお前らを(よみ)することは到底ないじゃろうが」と稲種建は言い捨て立ち上がると、いそいそと工房へ行った。  壁にはうら若き美女ミキちゃんこと玉木美姫(たまきみき)をモデルにした春画が飾ってあったりする。兎に角この浮世絵師エロいのだ。机に置いてある筆箱を開けて毛筆を執った彼は、穂首をいやらしそうに触りながらにやにやして独り言ちた。 「まさか、この毛がミキちゃんの陰毛とは気づくまい。う~ん、この若草のようなふさふさとした柔らかい触感が堪らん」  稲種建は猫の毛の他に玉木美姫の陰毛を混ぜて作った穂首を備え付けた毛筆で描くことによって自分の浮世絵に色気を宿すことが出来るのである。
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