奇祭で結ばれし揮ったカップル

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 稲種建(いなだねけん)は名にし負う浮世絵師である。春画を得意とし、容貌は鬼みたいに彫りも皺も深く起伏に富み妖気を漂わせて物凄く背が飛び抜けて高いから葛飾北斎(83歳の頃に北斎が描いた自画像を参照されたし)の生まれ変わりじゃないかと思わせる程、異彩を放つ。歳は53で技術的に脂がのって来た。その男が自邸の座敷に於いて弟子を一堂に集めて言った。 「お前たちはわしの技法をすべて大過なく学んだ」厳めしい面構え同様厳めしい口振り。彼は頗る貫禄があるから自分のことを今時珍しく、わしと言っても違和感がない。「よって、わしがお前らに教えることはもう何もないと言いたいところじゃが、曲学阿世の徒とでも言おうか、有象無象の徒とでも言おうか、将又、一知半解の徒とでも言おうか、半可通の徒とでも言おうか、それが為にとどのつまり、お前らは作品を俗にしてしまい、いつまで経っても、たわけなのじゃ。じゃから」 「そのたわけというお言葉は耳に胼胝ができる程、お聞きしておりまして」と弟子の一人が口を挟んだ。「思えば、先生の指導を仰ぐこと10余年の歳月を(けみ)して参りましたが、先生の絵に宿る色気がどうしても表現できません。ですからその匠の技の奥義極意を是非とも御伝授願いたいのですが」 「何を教えても枝葉末節にしか及ばず到底本質を掴むことも要諦を押さえることも出来んお前らに教えてもなあ・・・」 「いや、そこを何とか」とさっきの弟子が代表して言う。 「どうしてもか?」 「はい」と弟子一同。 「なら、○○街の○○店に電話してわしが大好きなミキちゃんを予約指名して○○店へ行き、彼女の匠の技を受け、5分持ち堪えたなら伝授してやってもよい」  弟子一同、隣の者と顔を見合わせ、もごもご言い合う中で一人の弟子が言った。 「師匠御自身ならぬミキちゃんの匠の技とは一体どんなものでございましょう?」 「師匠に言わせる気か!聞くだけ野暮じゃ!兎に角、伝授して欲しくば、ミキちゃんの匠の技を受けることじゃ。さすれば、わしがミキちゃんに直接聞いて確かめ、持ち堪えた者に伝授して遣わそう。じゃからミキちゃんとプレイする前にわしの弟子の何某と名乗らなければいかんぞ。でなければ、確かめようがないからな。分かったか」 「はい、分かりました」と弟子一同。 「では10日後、ミキちゃんに確かめるによってそれまでにお前らは残らずミキちゃんとプレイするのじゃ。分かったな」 「はい、分かりました」と判で押したように弟子一同。 「うむ。さてと、わしはミキちゃんと打ち合わせ(かたがた)おしゃべりでもしようかの」  稲種建はスマホを袂落としから取り出すと、腰を上げ、座敷を後にした。  
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