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レコードは、1000枚を超える異常な数が揃っていた。といってもコレクターでも音楽マニアでもなく、中身はメチャクチャなところに、逆にある種の凄みがあった。
三波春夫や五木ひろし、トム・ジョーンズにさだまさし。弘田三枝子やシルヴィ・バルタン、山口百恵。浪曲にロックにフォークに映画音楽にカラオケ。YMOにベートーヴェン、アート・ブレイキーまで。
ジャンルを問わない幅広さ…否、全くもって無節操なラインアップは、まるでミニレコード店。カオスな様相はガキの俺を熱中させた。母は、カビ臭く埃っぽいレコードの山が大嫌いだったが。
中でも俺がハマったのが、エルヴィス・プレスリーとビートルズだ。リアルタイムではないにしろ、生まれて初めて触れた洋楽がロックの最高峰であったのは僥倖だった。
エルヴィスなら『アイ・ウォント・ユー・アイ・ニード・ユー・アイ・ラヴ・ユー』、ビートルズなら『涙の乗車券』が、俺の最初のフェイバリットだ。
親父はお笑いも好きで、人気番組は全て見ていた。もちろん土曜夜は『全員集合』。ただ週末となれば親父は付き合いの名の下に飲み歩いていたので、ドリフが集合しても家族が全員集合することは少なかったが。何だよそれ。
それでも家族でお笑い番組を見た時間は、俺の幸せな記憶だ。親父は酔うとカトチャンやひげダンス、電線マン、カマキリ拳法なんかの真似をして笑わせてくれたっけ。ヒゲのテーマのレコードも買ってきたが、切り抜き付録のヒゲは流石にもったいなくて切れなかったな。
今思えば、そういうのが親父の精一杯の愛情表現だったのかもしれない。
だが俺が小学高学年の頃。洒落にならない不倫で家族を崩壊させた親父は、数年後にはあろうことかその愛人を家に入れ、母が家を出ることになった。
俺は父に殺意を覚えた。母は心身ボロボロになり10年別居しつつも、離婚には至らなかった。当時は苛立ったが、離婚に応じないことが、せめてもの母の意地でもあったようだ。
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