親父の一番短い日

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親父の一番短い日

 俺の父は、クソ親父だった。  家にいないの当たり前、母へのDV当たり前(精神/肉体両方)、無断で借金当たり前、飲み屋は出禁当たり前、浮気も不倫も当たり前。  息子の扱いは今でいうネグレクト。俺は親父から本気で叱られたことが一度もない。  高度経済成長期に大量発生した、会社に人生を捧げたモーレツサラリーマンだ。情状酌量の余地はある。とはいえ同級生たちは、夏休みはお父さんと一緒にキャンプだ旅行だなどと喜んでいたのだから、少なくとも息子にとってはギルティだろう。  会社命だけあって仕事は超真面目。早朝の工場管理を押し付けられても毎日馬鹿みたいに早起きしていたし、日曜日でも何度か工場の様子を見に行く。だがそういう外面と家の様子のギャップがわかってくるほどに、俺はますます親父を嫌悪した。  …という事実以上に、俺は単に、親父とウマが合わなかったのだ。親父にとっては弟の方が接しやすいようであった。  そんなクソ親父でも一つ、いや二つだけ感謝していることがある。  一つ。うちは裕福ではなかったが、貧乏にあえいでいたわけでもないこと。 (借金取りの来襲はあったが…ま、ほぼ母の倹約の成果だ)  一つ。俺にエンターテインメント(音楽、映画、お笑い)の楽しさを教えてくれたこと。  実家には、当時最先端のオーディオシステム「4チャンネルステレオ」があった。今では知る人も少ないだろうが、いわば5.1chホームシアターシステムのご先祖様だ。が、相対的にはそれ以上の贅沢品だったものと思われる。
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