1 苦手な生徒

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 冷えた空気が、ワイシャツのえり首からすべり込み、身体がぶるるんっと震えた。 「うう、さむ……」  十一月に入り、朝の気温はぐっと下がった。日に日に冷え込みが厳しくなっている気がする。一年の中で冬が一番苦手な僕は、ウールのカーディガンの袖口をのばし、手袋代わりにすっぽり被せた。 「ひゃははっ!」  ふいに外廊下側から、大きな声が耳に飛び込んでくる。嫌な予感に僕の首筋がきゅっと強張った。  「おまえ、バッカじゃねえの~」「うっせんだよ!」騒がしい声と共に、二、三人分の足音が近づいてくる。  どうか僕の存在に気づかず通りすぎてくれますようにと祈りながら、僕は彼らに背を向けたまま、ぱんぱんに膨らんだゴミ袋の口を縛った。  ポンッと足元になにかが転がってくる。空のペットボトルだ。反射的に振り向いてしまい、しまった、と思ったときは遅かった。  長身の男子生徒が三人、会話を止めて僕を見ていた。さっきの騒がしい声の主達だ。    ペットボトルはくるくる回転して、廊下の端で動きを止める。僕は黙ってそれを見つめた。 「おいおい、そんなところに落とすなよ、ゴミが増えて松澤ちゃんが困っちゃうだろ」 「わりい、気づかなかった。あ、ホントだ、松澤ちゃんいたんだー」 (わざとらし……)  スキンヘッドに鼻ピアスの生徒と、不自然なまでに日焼けした金髪の生徒。二年E組の生徒だ。  そしてもう一人、背の高い二人よりもさらに長身の人物、五藤貴也(ごとうたかや)だ。
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