1 苦手な生徒

4/10
251人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
 僕、松澤綴(まつざわつづる)は高校教師だ。この『自由学園』に赴任して来て、あっというまに半年が過ぎていた。  外廊下から校内の廊下へ歩いていくと、あちこちにゴミが散らばる光景が広がった。相変わらず荒れ果てた校内の様子に、早くも気持ちが萎えてしまいそうになる。  以前勤めていた学校を自主的に辞めてから、しばらくはなにも手につかなかった。自分は教職に不向きなのではと思い悩み、まったく別の職種をあたろうと考え始めた頃、紹介されたのがこの学園だった。  この「自由学園」は、自由な校風で制服もなく、何よりも生徒の自主性を尊重する高等学校だ。学園内の環境はすべて、自分たちの手で整えなければならない。――もちろん自主的に。  僕は背筋をのばしながら、日常的にゴミが散乱している廊下を眺めた。学園の方針に惹かれ、決めた進路だったが、この汚さには正直ひいた。 「ったく……自分が出したゴミくらい、せめてゴミ箱まで運べよなあ」  教師が掃除をしてはいけない決まりもないから、歩くたびに拾うのは、習慣になってしまった。  受け持ちのクラスがない僕は、授業のないこの時間に、こうして掃除をしている。  ゴミがゴミを呼び、一つでも落ちていれば、あっという間に足の踏み場がなくなるのだ。いたちごっこのようだが、やはり拾わずにはいられない。  僕はぶつぶつ文句を呟きながら、腰を折ったりのばしたりを繰り返した。 「松澤先生、朝からおそうじ?」  振り向くと、ここでは僕より先輩の佐尾先生が立っていた。彼女は英語担当の教師で、同じく二十四歳だ。  
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!