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「もうくせみたいなもんでさ」
「ほんと、真面目なんだからあ~、あ、じゃね、お先」
「うん」
言いながら、彼女は職員室を目指し小走りで去って行く。僕もそろそろ、戻ったほうがいいかもしれない。
腕時計を見やり、一日の予定を確認するため、常に持ち歩く小さな手帳を取り出した。
――今日は、二時限目が二年E組か……
途端に憂うつな気分が襲ってくる。
はあっと口からなさけないため息が出て、あわてて周囲を確認した。
僕のこんな様子を、生徒たちに見られるわけにはいかないからだ。
国語教師の僕は、一、二年生を担当している。
自由な校風の中では珍しいのだが、僕は、厳しい教師として知れ渡っていた。今まで自由を満喫していた生徒たちにとっては、さぞ迷惑な存在だろう。
教師が厳しい態度をとってはいけないという決まりもないし、文句を言ってくる教師もいないから、僕は僕の決めた教師のイメージで教壇に立っている。
その効果は絶大で、ほとんどの生徒が僕の授業をサボることなく真面目に受けている。特に一年生は高校生活を始めたばかりだから、素直で可愛い。
しかし二年生の中には、今までとまったく生活態度を変えない連中もいて、それがE組の一部の生徒だった。
すべての生徒を自分の思い通りにしようなんて思わないけれど、E組の彼らはあまりに反抗的で、時々気持ちが折れてしまいそうになる。
僕の本来の、ひ弱でのんびりした性格に反し、厳しい教師を演じている身としてはかなりきついことだった。
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