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校門側が賑やかになり、生徒たちが次々に登校してきた。
毎朝見ている光景なのに、彼らのカラフルで華やかな服装には、毎回ドキリとさせられてしまう。
昨年まで勤めていた学校はもちろん、今まで私服の学校は経験がなかったからだ。
教室へ流れる生徒たちと朝の挨拶を交わしながら、僕は反対方向の職員室へむかった。
◇
二年E組の教壇に立つと、毎回なさけないことに、緊張から指先が震えてしまう。
しかし、僕を鬼教師だと思っている生徒には、この緊張感は良い意味での影響を与えているようだった。
「要旨とは、このように筆者が最も言いたいことを、短くまとめたものを指します。筆者の中心となる考え方や、意見がわかります」
この学園の自由な雰囲気は、生徒だけではなく大人たちにも浸透していた。
ほとんどの教師が、ジャージやカジュアルな服装で授業に出ているが、そんな中、僕だけは常にスーツを着用している。
一人暮らしだからワイシャツは自分でアイロンをかけるし、スラックスはプレッサーを使う。
夏の間だって、きちんと上下着用で授業にのぞんでいたのだ。――職員室に一歩入ったら、ソッコー脱いだけど。
『形から入る』というのは本当に重要だと、つくづく実感していた。僕自身、きちんとした服装によってスイッチが入るのだ。生徒の前では、強気な姿勢を決して崩してはならないからだ。
僕は弱気な心を振り振り払うように、チョークの粉がついた手をはたき、教室内を見渡した。
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