1 苦手な生徒

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「では、これらの文章の中から、要旨を探してみましょう」  窓際の一番後ろの席に、五籐貴也は座っていた。机にうつぶせに突っ伏して、眠っているらしい。耳にイヤホンを入れているのが見えた。  五藤の前と右隣には取り巻きのスキンヘッドと金髪が、丸めた紙を投げ合っている。席を決めるのも生徒自身だから、自然とやんちゃな奴らが後ろへかたまるのだ。  僕はギュッとこぶしを握りしめ、後ろの席へ歩いて行った。僕の行動に、教室内の空気がぴんと張りつめた。  生徒たちは、これから起こる事への恐怖と好奇心の混ざった視線で僕を見つめている。 「五藤くん、起きてください! 授業中ですよ」  丁寧な口調だが、できるだけ大きく低音で言わなければならない。 「五藤くん!」  何度か声をかけても、五藤はぴくりともしなかった。  生徒たちに本性を隠しているけど、僕なりに決めていることがある。生徒を必ず「◯◯くん」「◯◯さん」と呼ぶということだ。間違っても、「おまえら」などと決して言わない。  厳しく指導する代わり、言葉使いは丁寧にする。そして、距離を縮めることもしなかった。  むろん生徒たちだって、な僕となんかと近づきたくないだろうから、この距離間はちょうどよかった。  僕は五藤の耳のイヤホンを、勇気を出して引っこ抜いた。(ちょっとおしっこチビりそうだった)途端に、シャカシャカと耳ざわりな音が漏れる。 「おい! なにすんだよ、てめえ!」  五藤の取り巻きの、スキンヘッドと金髪頭が怒鳴り、立ち上がった。これもいつものパターンだ。  そして、ぴく、と五藤の頭が反応し、ゆっくり身体が起き上がった。
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