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「はぁあぁあぁ~……怖かったああ~……」
僕は職員室の自分の机に突っ伏し、なさけない声を上げた。
E組の授業の後はいつもこんな調子だ。周りの教師たちは僕の行動にすっかり慣れてしまっていて、誰も気にとめない。職員室の「いつもの風景」なのだ。
「つっくん、お疲れさま。はい、元気の元あげる」
職員室や生徒が近くに居ないときは、僕のことを「つっくん」と勝手に呼ぶ佐尾先生が、差し出した僕の手に、ピンクのチョコレートの包みを三個乗せてくれた。
「あんがと……」
僕は片方の頬を机にくっつけたままの格好で、お礼を言った。
「厳しい教師を装うのも大変よね。ま、端から見てると面白いけどー」
佐尾先生は、首もとでカールしたブラウンの毛先を指先でくるくる回した。行儀悪いけど、僕はそのままの姿勢で元気の元をあむ、と口へ放り込んだ。
断っておくけど、僕は別に佐尾先生と個人的なお付き合いしているわけではない。
彼女は親しくなるとあだ名をつけたくなるらしくて、そのせいで僕は他の先生達にも「つっくん」とか「つっくん先生」とか呼ばれて、それが定着しつつある(但し職員室内に限る)
ちなみに、教頭先生や学年主任や他の先輩方をあだ名で呼ぶのは彼女だけだろう。さすが自由学園、他の学校では考えられないことだ。
僕にとって、広い学園内で唯一、この職員室だけが素の姿をさらけ出せる自由な場所で、オアシスだ。
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