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通常、生徒が職員室に入るのは禁止されていて、生徒が教師に用のあるときは、入り口で呼び出す決まりになっている。
自由な校風でも、ここだけはきっちり線引きされているのが救いだった。
こんな姿、絶対に生徒に知られるわけにはいかない。今までの努力が水の泡になってしまう。
運良く僕の席は、入り口から死角になっているから、本当にラッキーだった。
「実際はこーんなにラブリーなキャラなのに、子供たちの前じゃすっごく無理してるもんねえ。大変だ」
他人事だと思って……。佐尾先生は綺麗にマニキュアが塗られた爪にヤスリをかけている。僕はすん、と鼻をすすり、佐尾先生を上目遣いで見た。
「そんな目で見ないでよ、こっちがいじめてるみたいじゃない。ほんと、眼鏡外すとめちゃ可愛いのに、もったいないわよね」
「僕なんか可愛くないもん……」
「何言ってんの、可愛いわよ~、すっごく」
軽やかに職員室を出て行く華奢な後ろ姿を見送り、僕は再びため息をついた。
自分でも、かなり無理をしている自覚はある。本心では、生徒たちとフレンドリーに接して、勉強意外の話とかたくさんしたいって思う。
でも……でもだめなんだ。それじゃまた同じことをくり返してしまいそうで怖い。僕は、一人前の教師に成長したいから……。
僕がこの学園に来てから、厳しい教師を演じているのには理由がある。それは、過去の苦い経験からきていた。
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