究極の目標②

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究極の目標②

 扉の先には実験室が広がっていた。  フラスコ。ビーカー。幾何学的な模型、黄色の水溶液に浸けられた生物、薬品の刺激臭。それらがそこに在るべきだという態度を伴って所狭しと並んでいた。  ロクとリリリカは部屋中央の一番大きい黒光りするテーブルのそばに白衣で総白髪の後ろ姿を認めた。  星が瞬くような不安定さでその白髪頭がゆっくりと振り返る。  深くシワの刻まれた顔が目立つ男だった。  肌も真っ白だが目の下のクマだけが青黒く、それが気味悪さを強調していた。 「……だれだ」  男の声は何年もメンテナンスされていないエンジン音のようにしゃがれていた。 「突然申し訳ありません、博士。初めまして。隣の同盟国より参りましたリリリカと」 「ロクです。すみませんね、騒がしくて。リリリカさんは第一印象を強烈にしようとし過ぎるきらいがあるんですよ」 「隣の同盟国?」博士と呼ばれたその老人は二人の闖入者を矯めつ眇めつした。拳銃、おそろいのブーツ。そして動きやすそうな迷彩柄の服。「――なるほど、軍人か。……悪いが大義名分は品切れ中だ。帰りなさい」  リリリカが柔和な顔をつくる。 「さすがは博士ですね。私達が買い物をしに来たというのは遠からずというところです。しかしそれよりもまずはお渡し(・・・)に馳せ参じたのですよ」 「ワシに渡す? なにを?」  博士の白い眉毛がピクリと上がった。 「ロク」  リリリカが短く言って、ロクは鈍に輝くアタッシュケースをテーブルに置いた。それから中央の留め具をゆっくりと外し博士に見えるように開けた。 「博士、いかかでしょうか?」ロクが言った。 「……これはまさか」 「そうです。博士がずっと待ち望んでいたものですよ。あなたは選ばれたんです。ま、選んだのは僕じゃありませんがね」 「おお、なんということだ……。ついに……ついに、この日が来たのか。長かった……。やっと、ワシは成し遂げたんだ……」  博士はアタッシュケースの中身を両手で慇懃に取り出した。  それは一枚の賞状と、勲章。  勲章はこの辺りではとても希少な鉱物を惜しげもなくあしらった星型のもので、その中央には赤い宝石が存在感を強く主張していた。  ロクがそのとぼけたような目で言う。 「やりましたね、博士。この国で、今年の一番の科学者はあなただそうですよ。本来はこの国の国王様が直接授与するのが定例ですが今年はそうも行かないようなので。代理で同盟国であるうちの国王がこれを持って行けとね。――ああそうそう。あなたを選んだ理由(・・・・・・・・・)はですね」 「――いや、言わなくていい。わかっている。ありがとう。同盟国とは言えわざわざ隣国からご苦労だったな。……そう。ワシはこのために人生を費やしてきたんだ。ただこの賞のためだけにな……。――そうだ。ワシはもう長いこと人と話していない。どうだね? よかったらどうかワシの苦労話を聞いてくれないだろうか」  ロクはリリリカを見て、リリリカは頷いて言う。 「ええ、お話ください。博士」 「……どこから話そうか。そうだ、あれは五十年前のことだった――」
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