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究極の目標①
「ところでロク。あなたは人生に目標というものが必要だと思いますか?」
薄暗い階段を下りながらリリリカが言った。
後ろを歩いているロクが答える。
「なんです、リリリカさん。藪棒に。宗教の勧誘なら間に合っていますよ」
「……一応言っておきますが、一般的に『藪から棒』という言葉はそういうふうに省略しません」
「へぇ。藪蛇は略すくせに。変ですねこの言葉。……で、なんでしたっけ」
「人生に目的が必要かどうか、です」
「それは僕なんかに訊くより――、この先にいるはずの博士とやらに尋ねた方が早いんじゃないですか?」
「……それもそうですね」
二人の手には拳銃が握られていて、ロクだけは鈍色の小さいアタッシュケースも持っていた。
不意にリリリカの流麗な黒髪が揺れるのをやめる。ロクがぶつかりそうになって、なんとか踏みとどまった。
「どうしました、リリリカさん。着きましたか?」
男性にしては背の低い方であるロクはリリリカが前にいると見えない。
リリリカが体を横に避けると、ロクの前に扉が現れた。
「ではロク。準備はいいですか?」
ロクは拳銃を構え直す。
「ええ、いつでも死ぬ準備は出来ていますよ」
「結構です。でも銃を撃つときは『いざというとき』のみです。私達はショーを披露しに来たのではありませんからね」
「わかっていますよ。名誉ある賞を渡しに来たんでしょう? ここの博士に」
リリリカはそうですがサムい冗談ですねと言って、
「では開けます……。――っ。……あれ?」
「どうしました?」
「鍵でしょうか……。開きません」
リリリカが扉を押したり引いたり繰り返している。
「あぁ、それ前後じゃなくてスライド式――」
パン。パン。ズキュン。バキュン。ドカーン。
「開きました。さあ行きましょう」
「…………はい」
「なにか?」
「いえ『いざというとき』とはなにか、と考えていたんですよ」
ロクはくせ毛のくすんだ金髪を掻いた。
「人生はたいてい緊急時です。ゆっくりしていいのは棺桶に入ってからだといつも言っているでしょう?」
リリリカが大股で部屋に入っていき、ため息交じりのロクがそれに続いた。
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