魔王だって想い出を語る

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 それから何度も同じような喧嘩をした。  原因は寝室であったり魔王の間であったり、風呂だったり。  喧嘩をすれば俺が必ず勝ち、ガルデリカが頭を掻きながら「すまん」と謝ってくる。  随分甘やかされていると思う。  勇者の行進は思った通りの速度で、まだ半分にも満たないと聞いていた。レヴィが側で見ているのだろう、たまに中庭に降り立つ姿を見かける。 「お土産」と言って貰ったのは香油で、風呂に数滴入れるだけで良い香りになるのだと言うから、ガルが入る時に使わせてもらっている。  香油がダメだったのか、それとも元からそう言うつもりだったのかは知らないし、なぜ俺がそれを受けたのかは当の本人ですら疑問ではあるけれど、魔王ガルデリカと(しとね)を共にすることが増えた。もちろん何も無いが。 「またまたぁ」とレヴィがニヤニヤするけど、実際何も無いのだから仕方ない。まぁ俺もお年頃なので期待してない訳ではないのだけど「そんなの何の意味もない」とガルは一切手を出してこない。  どうも今のガルは人の営みの「恋」だの「愛」だのといった目に見えないモノに興味があるようで、親子とはなんだとか夫婦とは、家族とは、友情とは、恋人とは、一体なんなんだと質問攻めにされる。  村は貧しかったし、愛だの恋だのと言う前に今日食うものの心配が先だったし、夫婦というより、年に数回をするお祭り的なものがあって父親が誰なのかわからない子どもは沢山いた。夫婦という形を取るのは王都とかもう少し裕福な村や町だけ。だから聞かれてもわからない。  そう答えても何度も聞いてくるからちょっとウザい。 「ディブィはわかるんじゃないの?だってロティが好きなんでしょ?」  そういえば、と思い出して全ての質問をディブィに丸投げしてやろうと思ったのに。
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