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壊れたカメラ
「う、動かない……」
キョウとシマの写真を撮ろうとした優だったが、それは出来ずに終わった。
「おかしいなあ……来る前はちゃんと動いたのに……」
優はカメラを指で叩いたり、左右に振ったりして確認をした。しかし、そのカメラのシャッターは動くことは無かった。
「どうしよう……カメラ壊れちゃいました……」
先程までの元気が嘘のように優は項垂れた。
「……しょうがねえなあ。おいらのカメラ貸してやるよ」
そう言ったシマに優は返す。
「駄目なんです! このカメラじゃないと……」
優は下を向いたまま話す。
「このカメラは魔法の力がこめられているんです。撮った写真は魔法界に自動的に送られて、それを僕の上司が判定してくれる予定だったんです。これが無いと僕……いつまでも国に帰れない……」
今にも泣きだしそうな優を見て、キョウとシマは顔を見合わせる。魔法のことはさっぱり分らないが、このカメラが特別なものだということは分かった。
先に口を開いたのはシマだ。
「……一応、修理してみたらどうでい?」
「自分出来たら苦労しません……」
「良い腕の職人が居るんでさ。そいつなら直してくれるかもしれねえぜ?」
「魔法のカメラですよ? 人間に直せるのかなあ……」
どんどん暗くなっていく優にキョウは言った。
「さっき魔法がこめられていると言っただろ。それだけで、後は普通の構造なら直せるかもしれないだろうが」
「そうでしょうか」
「それは修理屋にしか分らんな。ほら、さっさと行くぞ。気難しい爺さんなんだ。早く行かないと店を閉めちまうぞ」
そう言って、キョウはさっさと引き戸に手をかけ外に出てしまう。優とシマは急いでそれに続いた。
***
仕事に戻る時間だと言ってシマは奉行所の方へ帰ってしまったので、キョウと優だけで修理屋に向かうことになった。
修理屋は町の外れにあり、近くには鍛冶屋もあってキョウがよく足を運ぶ場所だ。
二人は修理屋の戸を開けた。中は埃っぽくキョウの家よりも薄暗かった。
早速、店主に声をかけ優のカメラを見せると、彼は低く唸った。
「変わったカメラだ」
「あの、直りますか?」
「……直らないことはない。ただし、時間がかかる」
店主はカメラを撫でながら言った。
「まず、順番に解体して中の構造を確かめる。その後で壊れた部品を取り寄せて修理をするからな。今日、明日というわけにはいかない」
「お願いします。大切なものなんです……」
頭を下げる優を、そして次にキョウを見て店主は言った。
「御代はお前さんに請求すればいいのか?」
「ああ、いつでも用心棒になってやるよ」
「はっ。こんなど田舎でよく言う……ところで、この坊ちゃんは、何処から来たんだ。随分と変わっているように見えるが」
「ああ、僕は魔法界、」
そこまで言った優の口を、キョウは手のひらで塞いだ。
「留学生だ。しばらく預かることになった」
「この時期に、しかもこんな田舎に留学か。災難だな坊主、この町には何にもないぞ」
***
「どうして留学生だなんて言ったんです?」
修理屋を出た途端、不服そうに優が言った。キョウは溜息を吐く。
「いきなり魔法使いだなんて信じる奴が居ると思うか?」
「それは……」
「いいか、俺とシマの前以外ではお前は留学生で通せ。分かったか」
「……はい」
もっともなことを言われて、優はしぶしぶ頷いた。
「ところでお前、今日の宿はどうするつもりだ?」
「やど……あっ!」
優の顔はすっかり忘れていたというような表情に変わった。慌ててキョウに尋ねる。
「あのう、この町に宿はありますか……?」
「あると思うのか、こんな田舎に」
それを聞いた優は項垂れた。桃遊町は小さな町だ。わざわざこの町に足を運ぶ観光客なんか居ないので、宿というものは一軒も存在しない。
「……あのう、キョウさん、泊めていただけませんか……カメラが直るまで……」
おそるおそるといった様子で優が聞いた。もう優には頼みの綱がキョウしか残っていない。
「お前が見た通り、俺の家は汚いぞ」
「か、構いません」
「しかし……タダで泊めてやるというのもな」
「と、言いますと?」
にやり、とキョウは笑った。
「家のことを手伝うと言うのなら泊めてやってもいい」
「家のこと?」
「掃除や洗濯だ。そのくらい出来るだろ?」
「はい。魔法界ではひとり暮らしでしたから」
「なら話は早い。働かざる者なんとやらだ」
「なんですか、それ?」
「いいから、行くぞ」
さっさと歩きだすキョウの背中を、優は急いで追った。
この時、二人はカメラなんて数日もあれば直るものだと思っていた。しかし、実際には簡単に話は進まないのであった。
何も知らないサムライと魔法使いは、家路を辿る。眩しく光る夕焼けが、二人の背を照らしていた。
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