長い長い片想い

19/21
213人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「…今日はまっすぐ帰ろう。」 そう言って、日野さんはそっとあたしの手を握った。 ドキッと胸が大きく跳ねる。 落ち着かない胸の鼓動を感じつつ、あたしも日野さんの手をゆっくり握り返した。 「手、嫌じゃない?」 心配そうに問いかける日野さんに、「嫌じゃないです。うれしい。」と微笑みかけると、安心したような安堵の息をついた。 「……日野さんは、いつから…あの…、あたしのことを…?」 あたしは初めて会ったその日から。 でも、日野さんはいつから? そういう気配も雰囲気もずっとなかった。 今日だって、検査室で日野さんと話をしたときも、至って普通。 「……自覚したのは二年前。」 「え…?二年も前から…?」 そんなに前から…? 「入社式で『あの時の子だ』とすぐに君に気がついた。それからは、君が検査室に来るたび、君のことを意識してる自分がいて……」 ふう…と大きく息をつき、日野さんは続きを口にする。 「ある日、救急車で運ばれた急患の検体を、救急処置室へ取りに行った。そこで君が働く姿を見て、君のことをもっと知りたいと思った。泣き顔の印象しか無かった君の真剣な顔。もっといろいろな表情を見たい。………それが始まり。」 そんなこと、あったっけ…? 「うーん…、」 思い返すも、救急処置室で日野さんに会った記憶は見当たらない。 「あの時のあの部屋は、ずいぶん緊迫してる状況だった。オレには気がついてなかったと思う。」 「……そっか。なら、思い出せないのも当然かな。」 日野さんが……好きな人が来たら、すぐに気がつきそうなものだけど……。 きっと日野さんが言うように、気がついてなかったんだろう。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!