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「…今日はまっすぐ帰ろう。」
そう言って、日野さんはそっとあたしの手を握った。
ドキッと胸が大きく跳ねる。
落ち着かない胸の鼓動を感じつつ、あたしも日野さんの手をゆっくり握り返した。
「手、嫌じゃない?」
心配そうに問いかける日野さんに、「嫌じゃないです。うれしい。」と微笑みかけると、安心したような安堵の息をついた。
「……日野さんは、いつから…あの…、あたしのことを…?」
あたしは初めて会ったその日から。
でも、日野さんはいつから?
そういう気配も雰囲気もずっとなかった。
今日だって、検査室で日野さんと話をしたときも、至って普通。
「……自覚したのは二年前。」
「え…?二年も前から…?」
そんなに前から…?
「入社式で『あの時の子だ』とすぐに君に気がついた。それからは、君が検査室に来るたび、君のことを意識してる自分がいて……」
ふう…と大きく息をつき、日野さんは続きを口にする。
「ある日、救急車で運ばれた急患の検体を、救急処置室へ取りに行った。そこで君が働く姿を見て、君のことをもっと知りたいと思った。泣き顔の印象しか無かった君の真剣な顔。もっといろいろな表情を見たい。………それが始まり。」
そんなこと、あったっけ…?
「うーん…、」
思い返すも、救急処置室で日野さんに会った記憶は見当たらない。
「あの時のあの部屋は、ずいぶん緊迫してる状況だった。オレには気がついてなかったと思う。」
「……そっか。なら、思い出せないのも当然かな。」
日野さんが……好きな人が来たら、すぐに気がつきそうなものだけど……。
きっと日野さんが言うように、気がついてなかったんだろう。
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