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日々は、いつも通り平和そのものだった。私の体は目覚めれば支度をして、会社に向かって歩き始めた。とある日の道中に百日紅のつぼみを見つけ、数か月後に開花することを楽しみとした。会社につけば上司の力強い声を聞き、同僚と残業についての愚痴を話しながら機械を操った。帰宅の際には仕事終わりの月を眺め、新月の日には夜黒を眺め、雑事を済ませて本を読み、そうしてパキラに魅入って眠った。
恒久の一ヶ月が過ぎた頃に異変は起きたが、それは大して持続するものではなかった。会社からの帰路、私の心は後ろから誰かにつけられているように感じた。試しに1回目と二回目に間を置いて、二度ほど後ろをそっと盗み見し、二度ともに、誰かがいた。なんとなく、偶然ではないと思った。その気配は何日か続いた。今週は昼勤であり、帰宅時は夜であるので、その姿はよく見えないが、しかし、私の体から隠れようとする気があまり感じられない気かした。むしろ姿を見せたがっているのではないか、などと想像した。
ストーカーをする理由というものが何かしらあるのだろうが、それはひどく不器用な方法に思われた。そういった人間には他の方法をとることができず、諦めることもできない一途で純粋な存在のように思われた。しかし私には私の生活があるのだから、その正しさを受け止めることは出来なかった。
社会にも私の心にも適応できない純粋な存在に対し、私の体は警察に被害届を出した。しかし、明確な証拠がないからか、鮮明な態度を示されなかった。私は、私のストーカーよりもこの警察官を軽蔑したが、すぐに彼には彼の規定と正しさがあるのだと思い直した。
しかし私の心には、私をストーカーする理由が思い浮かばなかった。私はあまりそういった存在を好く人間ではない。が、しばらくすればそれは私の影のように、日常の景色となるようにも思った。しかしどうせ影になるのなら、その生命を失った方が、死体になったほうがより私が心を開くのにとも感じた。
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