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私の日々にストーカーが追加されて数日が経ち、私の仕事が夜番になり、日光に満ちた帰りに、すでに私の影のように定着しつつあったその人が私の目前に現れた。男だった。
「な、なあ、お、オレのこと覚えとるやろ?」
たどたどしい口調だったが、どういうわけか男の声はとても鮮明で、それゆえにうるさく私の心に侵入し、私を乱した。それは私の最も避けたいことの一つだったので、私の心が不快を感じていることに気付いた。そして私の体は彼のことを覚えていなかった。が、知人が分からないことは私の体にはよくあることだったので、これは仕方がないと思った。
「失礼ですが、どちら様でしょうか」と口を開いてみた。それがいかなる私であるかを感じる前に、彼は答えた。
「オレや!轢かれたのをあんたに助けてもらった……」
とある私には心当たりがなかった。別の私は知っていたかもしれないが、彼の声が私の心にミキサーをかけていたので、すでにその私は見当たらず、私の頭はふわふわとしていた。その状態が良くないことを私のどれかが感じたので、私たちは原因から離れることを決めた。が、誰かに待てと言われた気がして、私たちは立ち止まってしまった。
誰かが私たちに一目惚れしたことを言い、誰かを好いているから助けたという旨のことが聞こえた。私たちのうちの一体が、一目惚れや、好いているという言葉に反応し、表層に素早く近づいた。多くの私たちがそれを押し止めたが、それでもその一体のほうが強者だった。
私は好奇心が旺盛であり、そういった人々の繋がりに憧れていたのだ。私は多くの私たちを押しやり、ついに表層へと躍り出た。
私はどんな人が私に好意を向けてきたのかを確認するために周囲を見渡したけれど、さしあたって近くにいたのは、痩せこけた、見映えのしない男一人だった。
「なぁ、どっちなんよ……」とその男が呟いたが、それは私に向かって言っているように見えた。
まさか、この男なんじゃないだろうか、と一瞬思ったが、そんははずはないと思い直そうとしたのに。
「おれのことが好きなんかどうか、はっきりしてくれや!」
と言われたので、私は車に轢かれて潰れたヒキガエルを直視した気分になった。
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