2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんなさい」と私は断った。ここは毅然とした態度をとらなければめんどうくさくなると思った。けれど、結局このような状況は、どうあがいてもめんどうくさくなるのだと私は思う。
「……そんなんおかしいやないか!」と男が叫び出したのだ。おかしい、おかしい、とぶつぶつ呟いている。私はイライラしてきた。
「よく分からないけれど、私はなにもおかしくないよヒキガエルさん」と侮蔑を込めて言い放ってやると、男は何を言われたのかよく分からない顔を一瞬浮かべ、それから顔が徐々に不快な色を帯びてくる。
「じゃあなんで……オレのこと助けたんや!おかしいやんか!好きやから助けるんやろう!?ええ!?騙したんか!?そうなんやな!?ばかげとる!……死んだるわ……そうや……どうせあんたに助けてもらえんだら死んどるんや……死んだるわ!」
そういって彼は駆けていった。私は幾分迷ったが、なぜか追いかける義務感を帯びていたので後を追った。
彼は車道の一歩手前で立ち止まり、むちゃくちゃに叫んだが、大体の主旨は「私が責任を取らなければ自殺する」といったものだった。
「いや、あなたの命の責任なんて負わないから。馬鹿馬鹿しいこといってないで、自分の生活を営んだらどう?仕事はしてるの?それともフリーター?」
そう言ってみたが、構わず男は叫び続けたので周囲に人が集まってきた。私は居心地が悪くなったので、今度こそここから去ろうと方向を変えて歩き出し始めた。少ししてクラクション、次いで大きな音が響いた。男の叫びは途絶えて人々の悲鳴が轟いた。
最初のコメントを投稿しよう!