2日目

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2日目

夢だと思いたかったが、現実のようだった。 檻の隅で蹲る渡邉はうっすらと目を開け、檻のパイプを見た。錆びた鈍色が胸に刺さる。 携帯も壁掛け時計もないため、時間が分からない。しかし感覚では朝なのだろうと渡邉は感じていた。 「起きろお前ら。」 未だ寝ている数人がもぞもぞと動き始め、扉を開けた田中の声に反応した。相変わらずスーツ姿に顔全体を隠す布、声は甲高く弄られていた。革の手袋を身に付けてポケットに突っ込んでいる。 寝惚け眼を擦る数人を起こすためなのか、ジャケットの内側から拳銃を抜いて奴は天井に向かって発砲した。朝早くから聞く銃声は心臓を撃ち抜いたような感覚で、思わず声を上げてしまった。 「いつまで寝てんだ。義務を忘れるな。」 再び引きずられてきた台車の上には10個の紙コップが並んでいた。 「全員これを飲め。」 檻の扉を開けて、奴は紙コップを並べた。扉の近くで寝ていた内海が紙コップの中を覗いて言った。 「ただの水…?」 起きたばかりの彼女たちはひどく喉が渇いていた。中でもより喉を潤したかったのか、佐野は真っ先に紙コップを手に取って口をつけた。 その様子を見て他の9人も紙コップに手を伸ばした。渡邉も喉を鳴らして飲み干し、何の味もないただの水であると把握する。 「じゃあ、しばらくそのままで。」 慣れた動作でパイプ椅子を引き寄せ、田中は浅く腰掛けた。昨日と同じ、両腕をだらんと下げて天井を見ている。これは一体何なのだろうか。 最初の変化は奇しくも全員に起こった。その場に座っている者、立ち尽くす者、全員の呼吸が妙に荒くなっているのだ。それはもちろん渡邉も同じで、どこか胸元がざわめく感覚がした。 「ねぇ…これおかしい…。」 どこか色っぽく聞こえる声を漏らした内海は檻に寄りかかって学生服のスカートを撫でていた。なんとか呼吸を整えようとしている渡邉が周りを見渡すと、どうやら全員が同じ状況のようだった。パイプ椅子の上で座り直し、田中は前屈みになって言った。 「よく効く媚薬だ。5000円もかけた甲斐があったな。」 何か反抗をしようと考えていたが、それすらも許さない高揚感が彼女たちを襲っていた。田中はパイプ椅子から立ち上がり、拳銃を置いてスラックスのファスナーを下ろした。だらんと下がったペニスは大きくもあり、硬直もしていなさそうだった。何故かその男性器が愛おしく見えてしまう。渡邉は胸の中で抱いた妙な感情を必死に否定した。 「今から名前順に、俺の前でオナニーをしてみせろ。板垣。」 渡邉の右隣で立っている板垣は胸に手を当てていた。千鳥足でふらふらと扉の前に進む板垣の目はとろんと溶けそうだった。 スカートが邪魔なのか、するりと脱いで彼女は下半身を露わにした。重力に負けているふっくらとした白い尻が妙に色っぽく、同性であるが彼女に対して少々興奮してしまいそうだった。 「あっ、気持ちいい…。」 足を広げて板垣は切ない声をあげた。どうやら陰核に触れているのだろう。垂れる尻の間から微かに見える彼女の小陰唇と陰毛が揺れていた。くちゃっと粘液が擦れていく水音が室内に染みる。 たまらず指を入れたのだろう、今度は温い液体の中を掻き混ぜるような音がした。 「はぁ、んっ…ダメ、もういきそう…。」 ぐちゅぐちゅと卑猥な音が加速する。掌と足の付け根が激しく衝突していき、板垣はびくんと全身を痙攣させた。肉付きの良い太ももが揺れる。絶頂を迎えた彼女はこちらに背を向けたまま余韻をため息のように吐き出していく。 「はい。じゃあ次、内海。」 田中のペニスは何も変化なく、その先端が冷たいコンクリートをぼんやりと眺めているようだった。 檻のパイプに背を預けたままの内海は板垣と場所を変え、彼女はその場に座り込んだ。両足を広げて膣口を田中に見せてスカートを捲る。 「よく、見て…ください…。」 理性を失ってしまったかのような内海は左手を後ろに回して体を支え、右手を前に持っていった。 渡邉は今まで媚薬には効果がないものだと思っていた。ただ高値の妙な液体、プラシーボ効果でもなければ何の意味もないことだろう。そう感じていた渡邉は自分たちの置かれた状況に困惑していた。陰気な内海でさえあれほど足を開いて自慰行為に耽っているのだ。さらに自分のスカートの中で疼く熱い感覚が真実だと教えてくれる。認めたくない事実が檻の中にあるのだ。 「いくっ、いくいく。」 彼女の背から派生するように伸びる白く細い足が開いては閉じを繰り返し、内海は絶頂を迎えた。もしかしたら自分もあんな風に派手な絶頂を迎えるのだろうか。自慰行為だけではなくセックスに関しても淡泊な考えを持つ渡邉は未だにこの状況を受け入れられない。ありもしない妄想や恋人との性行為を浮かべても派手なエクスタシーに達したことのない渡邉の目の前で、媚薬に濡れた女性たちが入れ替わり立ち替わり、ペニスを下げる田中の前で自慰行為を繰り広げていった。 「最後。渡邉、しろ。」 尿を漏らしたためにパンティーを穿いていない渡邉は、太ももを伝う液体の存在を肌で感じていた。自分でも恐ろしいほど欲情している。こんな経験は初めてであった。 ふらふらと檻の前に進み、座り込む。尻にコンクリートの冷たさが伝わったが、それをすぐに掻き消すほどの熱さが膣口にはあった。ベージュのスカートを捲って下半身を露わにする。いつものように陰核に触れると、今までにないほど膨張していた。 「あぁっ…。」 今までの自慰行為であげたことのない喘ぎ声が室内に響いた。空いた左手で口を抑えたものの、右手の動きは止まらない。中指の先端で陰核を練るように弄ると、感じたことのない快感が臀部から全身へ伝わる。爪先から背骨、耳の裏から旋毛まで細い毛先で撫でられたような感覚から、情けない声を上げてしまった。 自然と指が下へ進み、中指の腹が膣口に触れた。未だ自慰行為で踏み入ったことのない領域は恐ろしいほどの快感を生み出してくれる。温い粘液が溢れる穴は最も簡単に渡邉の中指を呑み込んだ。 もちろん過去に交際した男性からの愛撫で経験はしていた。興奮していると勘違いした男からの愛撫ほど痛いものはなく、ただ腰を押されているような感覚だけだったことを記憶している。しかし今の彼女は違った。中指をゆっくりと引いて押し込む、たったそれだけの動作でこの世の全てがどうでもよくなるほどの衝撃が走るのだ。そして渡邉は今まで思ったことのない言葉をこぼしていた。 「もっと、もっと…あっ…。」 自然と尻が浮き、右手の動きが加速していく。膣から溢れ出た愛液が掌をも濡らし、激しさが増していった。右手が足の付け根にぶつかる度、肌と肌の衝突する音が濡れる水音に加わる。いつもと違った絶頂が来る、そう感じた時には叫び声となって口からこぼれた。 「いく。いっちゃうっ。」 腰を前に突き出し、下半身が宙に浮いた状態で渡邉は絶頂を迎えた。口を抑えていたはずの左手は彼女を支えるようにコンクリートについているが、その指先にまでエクスタシーによる痙攣が生じている。崩れ落ちるように仰向けで倒れこんだ渡邉の目には田中の姿があった。俯いたままのペニスはどこか寂しそうに見えて、つい抱きしめたくなってしまった。 「全員終わったな。じゃあ次だ、おとなしく待ってろ。」 そう言って一度部屋から出た田中は何かを取りに行ったようだった。起き上がって後ろを振り向くと、そこには予想だにしない光景があった。 全員がまだ興奮しているのだ。 「もっとしたい…。」 そう呟いたのは渡邉から一番近いところに座る守下だった。まだ中学3年生の彼女は先ほどした自慰行為の際にオナニーの経験はないと言っていたが、今は幼い顔立ちに妖艶な表情が浮かんでいた。あどけなさの中に見える大人な一面は、同性でありながら興奮してしまう。自分でもまだ股間が疼くのが分かる。渡邉自身もまだ足りていないのだ。 「おい、全員後ろに行け。」 明らかに正常ではない10人がのろのろと退がり、檻の扉が開かれた。今ならすぐにでも逃げ出せる状況だが、股の疼きが止まってくれないのだ。 田中は再び台車を引いていた。いつもと違う様子は、台車全体を覆う布だ。何かを隠すようにしている。 「お前ら、まだ足りてないんだろう。」 おそらく全員が図星だと思われるその言葉に、誰も何も言えずにいた。ただその表情を見て、田中は一息吐くように笑った。 覆われていた布から顔を出したのは、10本のディルドだった。肌色の張形は勃起した陰茎を表しており、天井に向かって生えている。何故か生唾を飲むほど魅力的に感じたディルドは黒い小さな箱の上に引っ付いており、田中はプレゼントの箱を抱えた少年のように持って檻の中に侵入し、10個を等間隔に並べた。 「どうせローションはいらないだろ。全員並べ。」 まだ否定したい10人は体をくねらせながら前に出た。自慰行為の際にショートパンツやスカートを脱いだ者、渡邉のようにスカートの裾を握っている者、おそらく皆がすぐにでもしたいと思っているのだろう。ディルドと田中を交互に見て、妙な空気が生まれる。 「何やってんだよ、早くしろ。」 そう拳銃を向けられた10人は、恐る恐るしゃがんだ。 渡邉の右隣で腰を下ろす宮野は、膣口に宛てがっただけで切ない声を漏らした。少し太めな白い足は触れただけで吸い込まれてしまいそうな弾力があると、視覚だけで判断できる。 左隣にしゃがみ込んだ長田は褐色の太い足を精一杯開き、10人の中で一番最初にディルドを呑み込んだ。昨夜聞いたどこか低い彼女の声からは想像がつかないほど切ない媚を含んだ喘ぎ声が耳に残る。 ゆっくりと張形の先端を膣口に持っていき、あとは勢いに任せた。黒い箱に尻を乗せ、反り立ったディルドが渡邉の膣内を満たした。過去にしたセックスとは比較にならないほどの快感が体の中心から指先まで伝わるようで、倒れてしまいそうだった。慌てて両手を黒い箱に乗せて体を支える。 「よし。全員挿れたな。動かす前に聞け。」 10人の女性が檻の中でディルドを膣内に挿れたまま、だらんと垂れるペニスを眺めながら男性の話を聞いているのだ。滑稽な光景だろうが、今は体内から生まれる快感がそんな俯瞰的な目線を一切排除している。田中は銃口を1人1人に向けて言った。 「今から媚薬が切れるまで、それでオナニーしろ。そして絶頂を迎えた奴は宣言するんだ。いった数が多い奴は今夜全員分の飯を総取りということにしよう。それじゃ、始め。」 正直な話、飯のことは頭になかった。すぐにでも腰を動かしたい、そんな感情が10人全員にあるのだろう。田中の言葉尻を待たずして、全員が腰を動かし始めた。 同時に響いていく喘ぎ声は耳を裂くほどやかましかったが、何故か自分の膣内から聞こえる分泌液だけは体内から聞こえていて、それが非常にいやらしく感じてしまう。自分はここまで喘いでしまうものなのか、どこか恐怖にも似た感情が湧いたが、体は正直という言葉は今のためにあるのだろう。疲労することもなく黒い箱に腰を打ち付けていく。2分程度で最初に絶頂を迎えたのは、右隣で喘ぐ宮野だった。 「はぁっ、いくぅ。出ちゃうっ。」 真っ白なポロシャツに収まりきらない乳房はかなり大きく、揺れるだけでどこかへ飛んでいきそうな弾力だった。ぶるぶると全身を痙攣させてがに股のまま両手で口元を抑え、宮野は潮を吹いた。口から余韻をこぼし、ペットボトルの中身を撒いたような透明な液体が途切れながら出ていく。その光景を見て、ぞくぞくとした感覚が渡邉の臀部から流れていった。 「あっ、いく。」 思わず口にしてしまった渡邉は黒い箱に尻を乗せたまま、白い両足をぐんと閉じて痙攣した。 田中の手には道路整理の仕事で用いられるようなカウンターが握られていた。カチッ、カチッと2回音が鳴る。 「田中さんっ、いっちゃう。いっちゃいます。」 格子柄のワンピースシャツの裾をたくし上げ、細い足と薄い尻を黒い箱にぱんぱんと打ち付け、本田が天井を向きながら絶頂を宣言した。再びカチッと、エクスタシーを確認した音が鳴る。 「ダメっ、いくっ。」 黒いTシャツの中で乳房を揺らし、褐色の足を大きく開いた長田が全身を痙攣させた。カチッ。甲高い声と粘液が響く檻の中で単調な音が加わる。 「やぁ、いくぅ…いっく…。」 真っ白なワイシャツをはだけさせ、千切れてしまいそうな乳房を両手で揉みしだく板垣は膣の奥にディルドを当てながらグラインドさせ、滑らかに絶頂に辿り着いた。カチッ。渡邉は快感のみが支配する脳内で別室を作るように思考を開始し、ディルドを出し入れしながら改めて考えていた。 十人十色とはよく言ったもので、女性の絶頂も様々だった。腰をくねらせる、あっという間にいってしまう、ひたすらに腰を打ち付けていく、だらしなく潮を吹いてしまう、エロスが成す派手な桃色は一通りではないのだ。 自慰行為の経験がない守下は必死に腰を上下させ、主演経験のある佐野は仰け反るような体勢で腰を前後に振る。控えめな乳房を露わにしてぱんぱんと腰を打ち付ける内海、グラインドさせながら陰核に触れて足りない快感を補おうとする羽鳥に、誰よりも大きな喘ぎ声で張形の快感を得る鈴本。騎乗位の体勢で絶頂を堪能する姿は星の数よりも多いのだろう。あまりにも淫靡な2つの五芒星が、暗い檻の中で眩く輝いていた。 「ダメぇ、いっちゃう、いっちゃう。」 情けない喘ぎ声を放ったのが渡邉自身だと気付くことなく、彼女は何度目か分からない絶頂を迎えた。 檻の中が久しく静けさを取り戻した。彼女たちにとって数時間にも感じた空間はむわっとしたしつこい暑さを残しており、衣服を直すこともなく全員がその場に寝転んでいた。 最初はひんやりとしていたコンクリートが自分の熱で溶けていきそうな感覚に陥る。自分の鼓動が最も自分との距離が近い音だった。 最終的に多く絶頂を迎えたのは守下だった。後半にかけて彼女の勢いは増していき、彼女は最後声にならない声で喘いでいた。そのためか絶大な疲労感によって彼女は檻の隅で死んだように寝転んでいた。 渡邉は5回絶頂した。もちろんエクスタシーの経験は豊富だと思っていたが、あんなにも声を上げてしまうとは思わなかった。今思い出しても顔から溶岩が流れるほど恥ずかしく思えてしまう。 しかし妙なのは、田中が何も手を出してこないということだ。自分を射精させろという宣言をしたにも関わらず、未だ彼のペニスは反応していない。ずっと項垂れたままなのだ。 妙な違和感を覚えながら頬をコンクリートに付けていると、既に聞き慣れてしまった金属音が鳴った。大きな扉の奥から台車を引きながら歩いてきた田中は項垂れるペニスを仕舞っている。 「守下、13回いった褒美だ。全員分の飯を食え。」 これは自分の感覚のために確定要素はないが、おそらく守下は極限な空腹状態なのだろう。彼女の表情からそんな虚ろな一面が見えた。 「他の奴らは食うなよ。ルールだからな。」 どこかで購入したであろう弁当を複数個檻の中に放り投げ、台車を引きずって田中は部屋から出て行った。 そこから見た守下の姿は、おそらく一生忘れることがないだろう、渡邉はそう感じていた。 チープな蓋を開けて彼女は箸を使うことなく、海苔弁当に貪るような、野生の動物のように喰らい付いていったのだ。 米に張り付くような海苔を剥がして唐揚げと共に口内へ放り込み、飲み物すらない状況で咀嚼していく。喉に詰まらせるのではないかと不安になる程だった。 守下遙はソフトボール部に所属しているらしい。そのため彼女が弁当に喰らい付く姿はより周りの9人の空腹を加速させていった。 腹部が削がれていくような感覚が1分程度続き、空腹の限界が波のように訪れていた。比較的ボリュームのある弁当を一瞬にも似た感覚で平らげた守下は、ふーと長い呼吸を吐いて、残りの弁当を手に取った。かなり華奢な体だが胃袋が大きいのだろうと、俯きながらぼんやりと考えていた渡邉の目の前に、未開封の海苔弁当が置かれた。 思わず顔を上げると、守下は他の女たちにも弁当を配っていた。つい言葉が漏れてしまう。 「ちょっと、これ遙ちゃんが食べるって…。」 守下ははだけた衣服のまま、目を細めて笑った。先ほどまで見た野生の姿は無い。 「だってあの人言ってたじゃないですか、私たちを餓死させるわけにもいかないって。だから皆で食べましょうよ。頑張ってここから脱出しましょう。」 なるべく檻から漏れないような声量で、守下は明るい表情を保っていた。 皆口々にありがとうと、なるべく小さく呟いて、自慰行為後の空腹を満たしていった。
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