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逢瀬と呼ぶには、余りにも情緒も風情もない。
情事、――いや、情交あたりがせいぜいお誂え向きか。
俺は奴の尺八が奏でる千鳥の曲に、じいっと耳を澄ませる。
横笛を吹くお上品さよりも豪快なのが、我ながら向きだと思う。
俺の管長はもちろん54㎝もないが、それでも奴には十二分に苦しそうだった。
――細面の顔は歪んでいても尚、きれいなままだった。
それにしても、首振り三年ころ八年とはよく言ったものだ。
喉奥まで咥え込んで首を小刻みに揺らす奴の様は、揺さぶるというよりは強請ると言った方が相応しい。
コロコロという音は鳴らないまでも、側壁を這う奴の指遣いは実に巧みだった。
八年――、奴との付き合いもだいたいそれくらいになる。
それ以前から奴には素地と素養とがあったと、俺は信じて疑わない。
俺を女に見立てての、鶯の谷渡りなど見事の一言に尽きた。
その証拠に、今も一気に頂点へと引き上げられている。
俺は慌てて椋鳥の体勢を崩した。
ムクドリ――、69ドリとは言い得て妙だった。
よく出来過ぎている。とまで思う。
男が上だとただの椋鳥、女が上だと逆さ椋鳥。
しかし、今の場合は互いにオス同士だった。
椋鳥の片割れが、奴が口を拭って俺を見る。
「もう少しだったのに。――嫌なの?」
「嫌だね」
奴がニィッと嗤う。
鶯の舌先が這い出てきて、紅梅の如き唇を舐めた。
先にイッた方が負けだと言い出したのは、俺だったのか奴だったのか――。
鍔迫り合いには余念がなく、全く気が抜けない。
狭いラブホテルの一室は、合戦場さながらだった。
終
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