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4 声優の私
それからの日々。月子は学生と声優の仕事を両立させていった。図らずも男性の声であったが実にセクシーと称されその後も他のアニメの監督からオファーが殺到し、彼女は卒業後、声優moonとして仕事をしてたのだった。
こうして仕事をしていたが、彼女は家族以外自分の職業を伏せていた。それはやはり男性の声というのが恥ずかしかったからだった。
根が真面目な彼女は声優の仕事に行く時から男性の気持ちを作る徹底ぶりでそんなストイックさが仲間から信用されていた。
こんな彼女には地元から町おこしのオファーがあり、駅の案内の声やバスのアナウンスもこなしていた。
そんなある日。友人の泉美から故郷で行う結婚式の招待状が来た。
……泉美の事を祝ってあげたいけど。みんなに会うのがちょっと……
しかし、実家にもしばらく顔を出してないし仕事も空いていたので月子は勇気を出して帰省した。
『お待たせしたね?次は大森駅だよ?忘れ物をしないようにね』
……恥ずかしい。これずいぶん前にやった仕事だ。
電車の中で自分のアナウンスを聞いた月子は電車を降りバスに乗った。
『ご乗車ありがとうございます。揺れるから気をつけようね?』
……こんな使われ方とは?オフレコしただけだから知らなかった……
しかし自分がmoonだとは世間に知られてない月子はようやく実家の酒屋に帰ってきた。
「ただいま……」
すると店の黒電話が鳴った。
「月子!代わりに出て!母さんの手は天ぷら粉で」
「わかった。もしもし、こちら海老屋酒店でございます……」
『……え?あ、すいません。ビ、ビールの配達を』
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