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「……」
「月子。頼むからその……俺を許してくれ」
自分の言葉で彼女を傷付けてしまった陽平はそれからの日々、ずっと後悔していたと話した。
あの頃より背が伸びた彼の自分を掴む手が震えていたので月子も胸がズキとした。
「こっちこそ、ごめんね。そんなに傷つけていたなんて」
「……」
「私はもう……そこまで気にしてないよ?でも陽平は、私の声が嫌いなんだと思ってた」
「月子」
彼は彼女を抱きしめた。
「……んわけないだろう?こんなに好きなのに」
「ちょっと待って?あのね。陽平が好きなのって、私の声なの?それとも私なの……」
「決まってるだろう」
「え」
全部だよ、と彼は耳元でささやき軽く頬にキスをした。そして優しく頭を撫でた。夏の夜風は囁くように二人を静かに包んでいた。
「好きだよ。やっぱり忘れられないんだ」
「陽平……」
「今回お前に会えると思ってずっとドキドキしてだんだ」
そう言うと彼は彼女から離れ、ニコと白い歯を見せた。
「さ。帰ろう。続きは東京で」
「?」
そう言って彼は月子の手を取り歩き出した。
彼女も慌てて歩いていた。
「ところでさ。お前は俺の事どう思ってるの」
「……さあ?」
「ちょっと!それはなくない?」
ここで月子は意地悪く微笑んだ。
「好きだよ。陽平……愛してる」
「う?マジですごい破壊力?」
月子の本気の甘ボイスに陽平は真っ赤になっていた。
「……ね。僕の目を見て?愛してるって言ってごらん」
「つ、月子」
「陽平。好き……」
「月子……俺もうダメ?」
「あ?もう、ちゃんと歩いて」
ヘナヘナの彼の腕を取って月子は笑顔で歩いて行った。
夏の夜、月が明るい道。熱い風は二人を一つにし優しく包んでいくのだった。
Fin
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