夜分遅くにお邪魔します

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 あれよあれよという間に、彼女は俺の部屋へ本格的に入ってきた。こんな夜中に子ども――と言っていいのか疑問だが――を通すのは初めてだ。迷惑極まりない。だが下駄をきちんと脱いで、窓の外に並べて置いたことだけは褒めてやりたい。良くしつけられている。  俺は布団の上にあぐらになった。少女は向かい合うような位置で、床に正座する。 「何だ、冷たい床だな。最近は床暖房が主流じゃないのか」 「生憎。……というか、良く知ってるな。何処の家にもそうやって勝手に上がり込んでんのかよ?」 「客に座布団の一つもないのか」 「招かれざる客だろ?」 「あとオレンジジュースでも出してくれれば最高なんだが……」 「聞けよ話を!」  そのまま無視し、彼女はぐるっと室内を見渡した。 「ほぉ……人間というのはこういう部屋で過ごしているのだな……」  家具や布ものをモノトーンで統一された六畳の部屋に、ノートパソコンが置かれたパソコンデスクと、漫画本が詰まったカラーボックスが一つ。隅には小さなテレビラックがあり、ペットボトルのジュースを買った時に付いてきた小さなキャラクターフィギュアが一個だけラックに飾ってある。そして部屋の中央に今、俺が座っている布団が敷かれている。俺が言うのも何だが、片付いている方だと思う。  興味深そうに視線を動かしているので、俺は話題作りで質問してみることにした。 「妖怪……鵺の部屋ってのはどういう部屋なんだ?」 「まぁ、想像通りだ」 「分かんねぇよ!」 「私のことがどこから見ても鵺にしか見えないのなら、きっと部屋も青年の想像する通りだろう」 「残念だが鵺の家なんて想像したことねぇよ」 「謙遜するでない。それよりジュースはまだか?」 「あんたはちょいちょい他の話が耳に入らなくなる妖怪なのか?」  嫌味なツッコミに、彼女は何の反応も示さない。鵺という生き物はみんなこうなのだろうか。  いやそれよりも。 「その……お面とか変な柄の着物は、デフォルトなのか?」 「当然だ」  俺の問いに、彼女は胸を反らした。これにはすんなりと答えてくれるらしい。 「鵺はみんなそんな見た目なのか?」 「当然、だ」 「本当に?」 「……当然だ」  何だか歯切れが悪くなってきたような。 「鵺という妖怪は、全員が全員、誰一匹として例外は無く、今の君と同じ格好だと、そういうことだな?」 「……」 「……」 「…………」  俺がじっと見つめる中、彼女は眼球だけをせわしなく動かした。俺に視線を合わせようとしない。  彼女の苦笑いが、答えを表していた。俺は敢えて彼女の方を見ないようにして言った。 「……分かったよ。認めたくないが心のどこかでは違うのだと分かっている、そういうことだろう?」 「……」  彼女は強く唇を結び、何とも言えない表情で小さく頷いた。どうしても「はい」と言いたくないらしい。ここまで来ると意地なのだろう。 「……その、まだ半人前とか、そういうことだろう?」 「……」  彼女はまた無言で顎を引く。さっきまでの堂々とした態度はどこへいったのか。 「まぁ……ちょっと察しはしたけどさ。見た目、人間の子どもだし。普通のやつなら、悪ふざけでそんな格好までして夜中に余所の家に上がり込むわけないよな」 「……すまん」 「お、認めた」  彼女は正座した膝の上でぎゅっと両拳を握っている。そしてこう呟いた。 「初仕事……だったのだ」 「へぇ。そりゃ、ご苦労様」  俺は背中を丸め、あぐらの上で頬杖しながら鵺少女の話を聞いた。
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