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「またな」と言って、彼女は窓から外に出た。できればもう来てほしくない。
「……おっ」
狸カラーの和服の裾から、蛇の尻尾が二本見えたような気がした。一本は垂れ下がったぬいぐるみ。もう一本は、頭をこちらに向け、舌をチラチラと見せていた。
「……くしゅんっ」
俺は着ていた寝間着の甚平ごと身体を震わせた。身体が冷えてしまっていた。そういえば窓がずっと開けっ放しだった。
鵺のいなくなった闇を見つめながら窓を閉めた。俺は最初からあんな堂々としていなかったから、彼女の、早く本物になりたいという熱意には羨ましいものがある。
――さて。
時計に目を向けると、だいぶ鵺女に時間を費やしてしまったらしい。すっかり目が覚めてしまった。
寝れそうにない。どうしてくれるんだ。この家の長男に頼まれて長期化けていた最終日に、厄介な目に遭ってしまった。俺の負けだ。彼女の初仕事は上手くいったと言っていいのではなかろうか。
「……おっと」
いけない。俺はさっきのくしゃみと一緒に飛び出てしまった茶色の尻尾を引っ込めた。
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