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プロローグ
「どうしてもおかえりになられるのですか?」
「ああ、上に残してきたおっかあやおっとうたちが心配しているだろうからな」
「そう、ですか……」
深海の奥深い場所にある竜宮城。三日前のこと、心優しい太郎は、地上で子供達にいじめられていた亀を助けました。
その夜、助けられた亀は若武者のような姿で太郎のもとに現れました。
亀に昼間のお礼がしたいと言われ、彼は竜宮城に招かれたのでした。
そこでは、それはそれは美しい乙姫様とともに、三日三晩魚たちの舞を見つつ海鮮料理に舌鼓を打つぜいたくな時間を過ごしました。
夜は乙姫様と一緒に床につきました。彼女は「もっとお近づきになってかまいませんのよ」と、太郎を誘うような艶のある素振りを見せましたが、彼は知り合ったばかりの彼女と何かあったら責任は取れないと思いとどまったので、それ以上の関係になることはありませんでした。
そして、彼はそろそろ地上が恋しくなってきました。
寂しそうに太郎の背中を見つめていた乙姫様が、
「では……」
と言って、小さなつづらを太郎に手渡した。
「これには私との思い出の証が入っていますが、決して開けてはなりませんよ」
「ああ、わかった。今までありがとう」
太郎も名残惜しそうに乙姫様を見つめながら亀に乗り、地上へと帰ったのでした。
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