355人が本棚に入れています
本棚に追加
晒す
製剤室の金属の作業台は二つ。奥の台に、黒瀬が言った通り、キットが散らばっている。そして手前の台には、裸の上に白衣だけを着て、くったりと火照った身体を横たえる、理人が居た。荒い息をして、腹の上に放たれた愛液もそのままに、うつろな目をして天井を見上げていた。
慧の気配に気が付き、ゆっくり顔が動いた。
目が合って数秒、理人の顔がみるみる青ざめた。
素早く白衣で身体を覆い、理人は台の上から降りようと脚を伸ばした。
ぐらりと理人がよろけた瞬間、慧は思わず手を出した。
「危ない!」
慧の腕に抱き留められた理人の身体は熱く、想像よりもずっと軽かった。
瞬間、真人の身体を思いだし、胸が締め付けられた。
「おい」
頭上で黒瀬のドスの利いた声が聞こえて、慧は息が止まった。
黒瀬の腕が慧の胸ぐらを掴み上げ、支えていた理人はどさりと床に落ちた。慧の目の前に、怒りに満ちた黒瀬の顔があった。
「気安く触らないでもらおうか」
捕らえられた慧の後ろで、理人が立ち上がる気配があった。黒瀬に抱かれた直後のおぼつかない足取りで、慧の横をすりぬけ黒瀬に近づく。
合わせた白衣の隙間から、白い太腿が見え隠れする。
慧の目が理人を追っていることを見て取り、黒瀬は慧の身体を乱暴に放り投げた。
「キットを片づけろ」
「は・・・はい・・」
慧は震える脚を必死に動かし、黒瀬と理人を見ないようにして、奥の作業台に近づいた。手が震え、金属同士のカチャカチャいう音だけが響いて、片づけは捗らなかった。その間中、黒瀬の蛇のような視線に監視され、慧は膝が勝手に震えていた。その関係性は教授といち薬剤師、というよりも、巨大な獣にロックオンされた小動物のようだった。
「・・んっ・・・」
床に散らばった器具を拾い集めようと膝をついたとき、慧の耳に理人の悩ましい声が再び聞こえてきた。
慧の背後で、黒瀬は理人の唇を吸っていた。
器具が鳴らす金属音と、淫靡な湿った音が、狭い製剤室のなかで重なり合った。
唾液が絡まる音を聞かないようにして、最後の器具をトレーに戻すと、慧はおそるおそる振り向いた。
部屋の扉を背にして、黒瀬は立ったまま理人を抱き寄せて、唇を貪っていた。慧に背を向けた状態の理人は黒瀬の肩に手をかけ、身体をしならせて黒瀬を受け入れていた。
理人の頭越しに、黒瀬は固まって目を逸らせなくなっている慧をねめつけた。
「片づいたようだな」
「は・・はい」
黒瀬は理人の身体を抱いたまま、気持ち悪いほど丁寧に言った。
「君は・・・これを食事に誘ったり、私との関係を探ったりしているらしいが・・・」
「・・・す・・・すみ・・ま・・・」
「噂とはやっかいなものだ。尾ひれが付いたり、嘘が出回る」
「あの・・・もう、しませんので・・・」
「本当のことを知れば、諦めもつくだろう」
黒瀬は理人の身体を慧の方に向けた。左手で合わせた白衣の裾がひるがえった。
「教授・・・?」
理人は不安気に見上げ、呟いた。理人はもう一度黒瀬の方に向き直ろうとしたが、それは叶わなかった。黒瀬は白衣を押さえる理人の左手を掴んだ。
白衣の前を開かれ、両腕をまとめて胸の前で捕えられ、理人は慧の前ですべてを露わにさせられた。理人が叫んだ。
「・・・っ・・教授っ・・!」
慧は思わず視線を逸らしたが、いきなり目に飛び込んできたその美しい身体が、真人と重なった。日焼けした肌をもつ真人と、透き通るように白い理人。理人は、震える声で、黒瀬に哀願した。
「やめて・・・くださいっ、こんな・・・」
理人は脚を閉じて、黒瀬の腕から逃れようと身をよじった。
黒瀬はいやがる理人の首筋に、唇を寄せた。びくっと、理人が震えた。
「・・・真実を見せてやる」
「教授・・・っ・・や・・・」
黒瀬は理人の首筋を舌でなぞりながら、背後から理人の中心に手を伸ばした。包み込まれた感触に、理人の腰が戦慄いた。
「あっ・・・っ嫌ぁ・・・んっ・・」
理人が悲痛な声を上げた。黒瀬は低い声で、萩野、と慧を呼んだ。
「目を逸らすな」
黒瀬の大きな手の中で擦り上げられ、理人の声に吐息が混じり始めた。
目を逸らしていた慧は、気がつけば黒瀬に愛撫される理人から、目を離せなくなっていた。
慧を見ないように顔を背けているが、忍び寄る快感からは逃れられず、黒瀬の胸に身体をもたれかけた理人は、もはや一人では立って居られないようだった。
「ん・・はぁ・・っ・・・あっん・・」
理人の中心を包んだ黒瀬の指の隙間から、ねっとりとした透明な液体が溢れ出す。黒瀬は理人の耳元で、楽しそうに囁いた。
「いつもより・・・早いな。興奮しているのか」
「・・・やっ・・言わ・・な・・っ・・」
理人の反応を楽しむように、黒瀬の手はさらに淫らに動きを早める。
もう、慧がそこに居ることすら忘れたように、理人は黒瀬の愛撫に身を任せ、昴ぶっていった。
「あぁ・・っん・・もう・・んっ・・」
「イきたいか?」
手を休めず、黒瀬は理人に顔を近づけた。半分閉じかけた瞼で黒瀬を見ると、理人はキスをねだるような表情をした。
黒瀬は理人の唇を塞ぎながら、硬直して事の顛末を見ていた慧に再び視線をやった。
慧には黒瀬が、手を出すな、と言っているように見えた。
理人は慧の見ている前で、黒瀬に背中を擦りつけるようにして、達した。
最初のコメントを投稿しよう!