355人が本棚に入れています
本棚に追加
過去 14年前①
真人と理人の双子の兄弟は、資産家の父と、美しいが病弱な母のもとに生まれた。
父はほとんど海外で過ごし、母は一日中自室で休んでいたため、物心ついた頃には、二人だけで過ごすことが普通のことになっていた。
広い洋風の家は近所でも有名で、何人も使用人が働いていた。
一卵性双生児だった真人と理人は、家族や使用人でも見間違うほどよく似ていた。学校でも、二人を見分けられる教師は少なかった。
真人は明るく活発で、理人は控えめで優しい。
スポーツが得意な真人と、勉強の得意な理人。
整った顔立ちは中性的な美しさがあり、思春期になるとそれは眩しいほどだった。学校でもそれぞれを慕って近づいてくる女子生徒が後を絶たなかった。絵本に出てくるような境遇の二人に変化が起きたのは、15歳の時だった。
『理人、起きてる?』
『ん・・・真人?』
熱を出した理人の部屋に、真人はノックもせずに入ってきた。
『どう、熱。下がった?』
『だいぶ楽になった・・・明日は大丈夫そう』
『どれ・・・いーや、まだ熱いぞ』
真人は理人の前髪を掻きあげて、自分の額をつけて熱を計った。汗ばんだ理人の首筋に触れて、真人は乱暴に布団を剥がした。
『すごい汗かいてんじゃん!早く着替えて!』
『布団剥ぐなよ・・・寒!』
『汗かいたままだからだろ!Tシャツこれでいい?』
真人は勝手に理人のタンスからTシャツとスウェット、下着を取り出して、理人の顔に向かって放り投げた。
『また勝手に出す・・・』
『細かい事言わないの。着替えたら、アイスあるよ』
『食べる!』
真人はアイスキャンディーを二本持って、楽しそうに振って見せた。
『ねえ・・・真人、あの子とつき合うの?河村さん、だっけ』
『え?ああ・・・断った』
『なんで?かわいいって言ってなかったっけ』
『かわいいけど、つき合うほど好きじゃない。理人こそ・・・告白されたって言ってたじゃん、えーっと、隣のクラスの楠本?』
『断ったよ。もともとそんな仲良くなかったし・・・』
『ふーん・・・俺ら、モテるよね、割と』
『そういうこと自分で言わないの・・・真人は本当そういうところ、直そう?』
『理人はさ、少し自信持とう?理人のこと好きな子、めっちゃいるよ』
『・・・興味、ないよ』
真人はアイスキャンディーを口にくわえたまま、理人をまじまじと見た。
『興味ないの?楠本さんとか、けっこう美人・・・』
『美人とか関係ないよ。女の子とか・・・苦手』
『そーなんだ・・・』
真人はキャンディーを食べきって、ゴミ箱に木の棒を投げ入れた。理人は俯いたまま、アイスキャンディーを見つめていた。
『アイス、溶けてる!』
真人は溶けて滴り落ちかけた理人のアイスにかぶりついた。
半分以上を真人に食べられて、理人は大きな声を上げた。
『あーっ!』
『だって溶けてたから!早く食えよ!』
『もう・・・』
理人は残ったアイスをぶつぶつ言いながら舐めた。真人はその理人の口元を見つめていた。
『理人はさ・・・好きな人いないの』
『え・・・?』
理人はアイスを口に入れたまま、真人を見た。真人はベッドで半身を起こした理人の隣に座った。
『なに急に・・・近いし』
『だって、今まで誰に告白されてもつき合わなかったじゃん。他に好きな人、いるんじゃないの?』
『・・・真人は?』
『えっ?』
『真人が好きなのは・・・誰?』
真人はすぐそばにいる双子の弟の瞳が、何を期待しているのか、直感的に気がついた。理人は、真面目な顔をしてそれを告げた。
『俺は、真人しか、好きじゃない』
真人は、からかうことも出来ず、黙って理人の言葉を全身に浴びた。
その言葉に込められた気持ちを、ずっと知っていて知らない振りをしていたから。瞬きもせず、二人はお互いを見つめた。
理人は、静かに兄の唇にキスをした。
そして、顔を背けて、言った。
『・・・風邪、移るから。もう部屋帰りなよ』
『移していいよ』
真人は背けられた弟の顔を引き戻し、自分からもキスをした。
理人はまだ熱のある潤んだ瞳で、兄を見た。
『熱出ても知らないよ』
『移したら早く治るんだよ、知らないの』
『早く出て行かないと、もっと移すよ』
『だから移せって言ってんじゃん』
理人は真人の声が切れた瞬間、もう一度唇を奪った。真人は熱っぽい理人の身体を抱きしめた。
母はもう一時間も前に、寝室へ入った。
使用人たちは、夕方には帰った。
真人は、理人の身体の上に被さり、濃厚なキスをした。
最初のコメントを投稿しよう!