355人が本棚に入れています
本棚に追加
過去 14年前②
「驚いた?」
「・・・・・・」
「15歳だったからね。後先なんか、何も考えてなかったんだ」
真人はテーブルに両肘をついて、正面に座る慧を見た。
慧は真人が指定したバーにタクシーでかけつけた。真人は、電話で話したときよりもさらに穏やかな様子で、慧を待っていた。
そして慧が必死に謝るのを、大丈夫だから、となだめた。
慧が落ち着くのを待って、自分と理人のことを聞いてほしいと、真人は言った。
「俺は・・・理人が女性が駄目なこと、気がついてたんだ。必死に周りに気づかれないようにしてたけどね。俺をそういう目で見てたのも分かってた。最初は・・・ほんの遊びのつもりだった。・・・俺はね」
「長谷川さ・・・理人さんは・・・」
「理人は、本気だったと思う。もう身体は大人みたいなもんだし・・・高校生だから知識もあったしね。・・・正直、止められなかった」
15歳の真人と理人は、母親や使用人に隠れ、初めてキスをした夜からほとんど毎日のように身体を重ねた。
「女の子とはあったけど・・・男はそれが俺も初めてだった。だから最初は二人で笑いながら、そうじゃないとか違うとか言って楽しんでた。でも、たまたま学校で、俺に絡んできた女子がいて、それを見てた理人に火がついたんだ」
〜〜〜~~~~~~~~~〜〜
『理人・・・理人ってば』
学校から帰るなりベッドにもぐり込み出てこない理人に、真人は鞄を放り投げた。どんなに真人が呼んでも、理人はぴくりとも動かなかった。
『何怒ってんの?』
ベッドに腰掛け、布団の上から触れた真人の腕を、がばっと起き上がった理人は、勢いよく払いのけた。驚いた真人の目の前に、唇を噛みしめた涙目の理人がいた。真人がもう一度手を伸ばした。バシン、と理人はその手を叩き落とした。
『触るなっ!』
『・・・いい加減にしてくれよ』
『・・・っ汚いっ』
『何言ってんだ、お前』
『見たよ。先輩と・・・キスしてたの』
『・・・あれは、向こうが強引に・・・』
『まんざらでもなかったんだろ』
『別になんとも思ってないよ、あんなの』
『何とも思ってない女とよくキスなんかできるな!』
理人が「女」と言ったとき、真人は理人の本心をかいま見た気がした。
ぐちゃぐちゃな泣き顔で、理人は真人のブレザーの胸ぐらを掴んだ。
『なんで・・・っあんな女とっ・・・』
『理人・・・落ち着けよ』
理人は真人をベッドに押し倒し、唇を重ねた。涙が真人の顔にも落ちた。
『真人は俺が好きじゃないの?』
『好き・・・だよ』
『弟として・・・?』
真人が黙っていると、理人は腕の力を緩めて、ベッドから降りた。真人は起きあがることが出来ず、仰向けに寝転がっていた。
真人に背を向けて、理人は声を殺して泣いていた。
少しの時間が過ぎた。理人が、ぼそりと呟いた。
『真人が俺を、弟としてしか見ていないなら・・・もう、やめる』
最初のコメントを投稿しよう!