慧と真人

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慧と真人

高級外車のドアを開けて、どうぞ、と真人は言った。 慧は、すいません、と言いながら身体を屈めて車に乗り込んだ。 「車だったんですね」 「職場からまっすぐ来たからね。飲めなくて参ったよ」 低いエンジン音が、地下駐車場に響く。乗り慣れない革張りのシートに、慧は緊張して身体を埋めた。 「すごい車ですね」 「そう?」 「緊張するな・・・」 「・・・どっちに?」 「え?」 助手席に座った慧に、真人は身体を近づけた。 「車?それとも・・・」 真人は、悠介が新しい相手と会場を後にしたのを見届けて、もう一件行かないかと慧を誘った。 慧は、正直なところ、それを待っていた。 理人に似ているだけでなく、真人からにじみ出るフェロモンに当てられていた。 「両方・・・です」 目の前の真人の近さに心臓が爆発しそうになりながら、慧は答えた。 真人の唇が、慧に触れた。ゆっくりとやさしく、舌が割り込んでくる。 薄く目を開けると、真人の長い睫が見える。再び目を閉じると、さらに真人の熱をもった舌が絡みついてくる。 慧は下腹部にぞわりと撫であげるようなうねりを感じて、思わず脚を合わせた。 「・・・大丈夫?」 「・・・え・・・」 「もう一件行くより・・・ホテルの方が良さそうだね」 真人の手が、慧の脚の間に伸びる。視線を逸らした慧の唇にもう一度キスをして、真人は運転席に戻った。 「車、出していい?」 「・・・はい」 車は静かに動き出した。 「・・・ふ・・っ・・」 ホテルのなめらかなシーツの上で、真人は慧の手を握り、濃厚なキスをした。 「名前・・・聞いてなかったね」 「け・・・慧、です」 「慧は、どっち?」 「普段は・・・タチです」 「そうか・・・逆の経験は?」 「ない・・・です・・・」 「経験してみない?」 「ちょっと、怖いってゆーか・・・」 「大丈夫、優しくするから」 そう言って、真人は慧のネクタイの結び目を人差し指で軽く緩めた。その手の心地よさに、慧は少しずつ身体の緊張を解いて、真人に身を委ねた。 唇から首、胸へと、優しいキスで解し、慧が気づかないうちにシャツのボタンは全て開けられていた。ベルトが外されて、暖かくて柔らかい唇の感触に慧のそれが包み込まれた時には、信じられない光景に、慧は目を閉じて真人から顔を背けた。 薄暗い部屋では、慧には、理人がそこにいるように見えた。 「慧、こっち見て」 見透かしたように、真人が言った。瞼を開けると、真人が不安気に見つめていた。 「嫌ならやめるけど・・・」 「いっ・・・嫌とかじゃなくて・・・その、こっち側、慣れてなくて」 「・・・続けていい?」 「は・・はい」 「力抜いて」 再び真人の熱い口の中に含まれて、慧は腰が自然に浮き上がった。続けていいかと聞く前よりも、確実に激しくなった動きに、慧の口から声が溢れ出す。 「は・・・っ・・・う・・・」 充分に慧の中心が昴ぶってくると、いつのまにか横向きにされた慧の後孔に、ぬめる冷たい指が挿入ってきた。 「うわ・・っ・・」 「大丈夫・・・ゆっくり慣らしてあげるから」 「ひっ・・あ・・・」 初めての感触に慧はシーツを掴み、堪えた。真人の指は、慧の身体の知らない部分を的確に刺激した。 「ここ・・・いつも相手の触ってあげるでしょ・・・どう?」 「ふ・・・あぅっ・・・ん・・・」 真人はゆるゆると前立腺を刺激しながら慧の耳を甘噛みした。 「気持ち良くなってくるから、リラックスして・・・慧」 名前を呼ばれ、真人の指が触れている部分がびくんと反応する。脚が勝手に震えだし、連続して喘ぎ声が漏れた。 「そろそろ・・・いいかな」 「は・・・い・・・」 真人の指を抜かれるだけで、慧は腰がびくびくと震えた。 薄暗闇の中で、慧は自分と真人の荒い息を聞いた。見下ろしてくる真人は、初めて肌を合わせる相手とは思えないほどに優しい。 真人は女性を扱うような丁寧さで、慧の中に挿入ってきた。 「んうっ・・・くっ・・」 「きついな・・・っ」 「堀さ・・っ・・」 「真人って・・・っ呼んで・・・」 「まひと・・さん・・っ・・あっ」 真人が動き出すと、慧は口がきけなくなった。真人は一変して、雄の顔をして慧を突き上げた。 慧は真人に抱かれながら、細い針に刺されるような罪悪感に苛まれた。
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