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真人の想い
「どうしたの、ぼんやりして」
「あ・・・いえ、何でもないです」
車が赤信号で止まったタイミングで、真人が慧に尋ねた。
連絡が来たのは、真人からだった。
食事でもしないかとメールが来て、最寄りの駅まで慧を車で迎えに来た。
真人の女性をリードするように丁寧な扱いに、まだ慧は戸惑っていた。
「紳士ですよね・・・」
「え?なに?」
「今、女子の気持ちになってます、俺。仕事終わりに外車でお迎えとか・・・」
「面白いこと言うね」
「こういう扱い慣れてないんですよ・・・」
「まあ確かに男同士だと、何事もがさつになりやすいからね。これから一晩一緒に過ごす相手に接するのに、男も女も同じだと僕は思ってるから・・・・」
「・・・そういうこと、さらっと言えるところが・・・」
「年の功だよ」
「・・・そんな歳じゃないでしょ」
「老成してるんだよ。いろいろ苦労してるんだ、これでも」
明らかにふざけた口調で真人は言った。慧も笑った。
「あの・・・真人さん」
慧は、気になっていたことの一つを思い切って口に出した。
「この間・・・何で、俺を誘ってくれたんですか」
ウインカーを上げて、車が左折する。直線をゆっくり走りながら、真人は答えた。
「何でそんなこと聞くの?それこそ女子みたいだね」
「俺、あんまモテたことなくて・・・どっちかっていうとごく普通の部類だし、真人さんぐらいいい男なら、相手はよりどりみどりなんじゃないかって」
「お褒めにあずかり光栄です。でも、よりどりみどりの経験はないなあ」
「そうなんですか・・・」
「そもそも君・・・僕をすごい目で見てたけど。自覚ない?」
「えっ」
「初対面とは思えないほど、僕をじっと見てた。あんな熱っぽく見られて、黙ってられる男がいると思う?」
「・・・す・・・すみません・・・」
「おまけに古典的な方法で声をかけられて、そりゃあ、誘うよね、普通」
「あ・・・はは・・・」
理人に似ていたから見つめていたとは、絶対に言えないと慧は思った。
目的のレストランの地下駐車場に降りていきながら、真人は真剣な面もちで言った。
「・・・なんて言ってるけど、それは理由の半分。君は自分が思っているより、セクシーだよ」
「は・・・はい?」
「自覚がないのか・・・余計にそそられるな」
エンジンを止めて、静かになった車内で真人は慧の方を見た。
「セクシーだと思う相手を、ベッドに誘うのに理由がいる?」
「・・・・・」
「一晩を一緒に過ごして、もっと知りたくなった」
「真人さん・・」
真人は慧の顔を引き寄せた。自分の顔を傾けて、唇を重ねた。
慧は目を閉じた。唇の温度が心地よかった。真人の手が、慧の肩を掴んだ。慧も、真人の胸に触れた。真人が慧の胸に頭を埋めて言った。
「・・・この間と同じパターンだな」
「そうですね・・・」
「じゃ、食事は後、ということで」
真人は車のエンジンをかけ直し、携帯を取り出した。そして慧に向かって放り投げた。
「悪いんだけど、これでレストランの予約、取り消してもらえる?連絡先Rのところにある、RISTRANTE MEROって店だから」
「えっ、あの、もう一回言ってくださいっ」
真人の発音が良すぎて聞き取れず、慧はあわてて聞き返した。真人は笑って、カタカナ発音で、リストランテ、と言い直した。
「・・・って、真人さん、これ表示全部英語・・・」
「ああ、向こうで使ってたままになってるから・・・わかる?いや、わかるよね、薬学部卒だから」
「はい、一応・・・あ!あった、これですね」
真人はハワイアンジュエリーの勉強に、10年近く留学していた。慧は電話番号をタップする直前、レストランの次の欄に登録されている名前に釘付けになった。
Rihito。
理人だと、確信した。
よくある名前じゃない、とかそんな理由を考えるまでもなく、慧にはそれが理人なんだと、直感で分かった。
(だけど今じゃない、よな)
慧は諦めて、レストランに断りの電話をかけた。
「・・・ふぁ・・・っん・・」
真人の濃厚なキスから解放され、慧は大きく息を吸った。真人の指が、慧の唇を撫でた。爪の先が少しだけ口の中に差し入れられた。
「この間初めてだったけど、痛くなかった?」
「大丈夫・・です」
「・・・良かった?」
「・・・は・・・はい・・・」
真人が慧を連れて行ったのは、高級ホテルのツインルームだった。予約をしている素振りもなかったが、フロントマンはスムーズにカードキーを差し出した。
肌触りの良いバスローブを纏って、真人は慧をベッドに横たえた。
理人と同じ中性的な造りの顔に似合わない、筋肉が流れるようについた、男性的な身体。ハワイにいた頃はよくサーフィンをしたよ、と真人は言った。真人のそばにいると、そう小柄でもない慧が、包まれてしまって小さく見えた。
「嫌なことがあったら、言って」
「もう、大丈夫です・・・真人さん、紳士すぎますよ」
「・・・そう?」
不意に、真人の手が慧の両手を捕らえた。頭の上で押さえ込まれて自由を失って、慧は自分の言葉を後悔した。真人の目の色が変わっていた。
「ま、真人さん??」
「本気出していいってことだね?」
「え、あの、え、あの、えっ?」
真人が、「本気」を出したその夜、慧は自分が男であることを忘れさせられた。
「・・・あっ、もう・・無理・っ・・・」
「まだダメ・・・イかせないよ」
「はぁっ・・・あ・・・うっ・・ん・・・」
真人の指は、慧の中で行きつ戻りつしながら身体を翻弄した。
慧は自分でも聞いたことのない声を上げ、真人の褐色の肌に無我夢中でしがみついた。慧の脚が、びくびくと痙攣し始めるまで、真人は許してくれなかった。
「お願・・い・・・真人さ・・もうイく・・・」
「・・・じゃあ挿入れるね」
真人の熱いものが、慧の中を押し開いて挿入ってきた。まだ慣れない圧迫感とせり上がってくる感覚に、慧は身悶えた。
「っぅあっ・・・」
「少し・・・慣れた?」
「真人さ・・・んっ・・・・」
「動くよ」
「ああっ・・・はっ・・・んぁ・・っ」
「気持ちいい?」
「は・・いっ・・・うっん・・・」
真人がさらに深く突き上げて、リズムを早めると、慧はほどなくして身体をのけぞらせて放った。息があがっている慧に軽いキスをして、真人はもう一度身体をぐいと押し進めた。
「あっ・・イったばかりで・・っダメですっ・・っ・・」
敏感になっている慧の身体を、真人は無言で貫いた。震えが止まらない慧を見下ろした真人は、雄の顔で微笑していた。
「慧・・・俺のことが好き?」
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